黒豆実る収穫の秋のベジタリアンランチ

食について

10月を迎えた「ぼち農」さんの畑。朝夕の気温がぐっと下がって夜露が下りるようになると、冬の葉物野菜の植え付け時期。一方、安納芋や黒枝豆、なすなどがちょうど食べごろに。そして農作業でおなかをすかせた取材班を待っていたのは…

妊娠・授乳期に心がけたい、野菜たっぷり健康的な「産育食」生活。
連載「ぼちぼち農園さんの野菜ごはん」では、野菜が育つ畑と、そこで働く人の食卓を、野菜ソムリエが訪ねます。
近ごろ野菜不足かな?なんて人も必見!知られざる野菜の魅力いっぱいです。

ぼちぼち農園さんのこと


かつては図書館司書をめざしていた潮屋健太郎さんと、映画の自主制作をしていた涼子さん。異色の経歴から農の世界へ入りました。

兵庫県丹波市にて、農薬・化学肥料不使用の野菜作りに取り組む潮屋さんご夫妻。「月とみのり」の産育食に、たくさんのヒントを与えてくれるパートナー農家さんです。2011 年にこの地に移住して以来、野菜作りだけでなく、天然酵母パンや自家製味噌にいたるまで、手作り生活を実験&実践中。

HPhttp://bochinou.com/

訪ねる人 仲田友梨
日本野菜ソムリエ協会認定ジュニア野菜ソムリエ
みらいたべるスタッフ
産育食レシピ開発に関わりながら、野菜のスペシャリスト目指して日々勉強中!

天高く、馬も野菜も肥ゆる秋です

雲ひとつなく抜けるような10月の秋空のもと、「ぼち農」さんを再訪した私たち。畑ではオクラやハンダマなど夏野菜の名残りと、秋冬野菜の「走り」が混在して、なにやらにぎやかです。

「今年は涼しくなるのが早くて、夏野菜がまだあるうちに秋冬の葉物野菜を蒔けたので、うまく作物のリレーができてるんじゃないかなと思います。最近は日の出も遅くなってきたので、朝は5時半から作業開始です。気温が下がって夜露が下りるようになったから、朝の畑に行くと作業ズボンの裾が芯まで濡れるぐらいなんです」

畑の近くにある黒井山の頂上には、戦国時代の名残である黒井城跡があり、秋には雲海の発生率が高まるとか。ひんやりとした朝もやに包まれた里山を想像すると、なんだか幻想的です。そして日中はしっかり太陽が照って気温が上昇するという寒暖差が、この時期の作物をおいしく育てる秘密のようです。この時期も「ぼち農」さんらしく珍しい作物がいっぱい!

【落花生】
開花すると、花が細い紐のように垂れ下がって土にもぐり、実になることからこの名前に。掘りたてを殻ごと茹でるとねっとり甘くて美味!

【シカクマメ】
縄では「うりずん豆」と呼ばれる栄養価の高い作物。さやごと揚げ物や炒め物にすると、さっくりした食感が楽しめます。

【ストロベリートマト】
別名食用ほおずき。爽やかな酸味とココナッツのような後味が特徴で、フランス料理や洋菓子の飾りつけに使用される高級品です。

【韓国唐辛子】
日本の唐辛子に比べ、やや長く大ぶり。まろやかな辛みの中に甘味が感じられます。ぼち農さんでは自家製キムチづくりに使うことも。

野菜ソムリエ(日本野菜ソムリエ協会認定ジュニア野菜ソムリエ)が注目!
産育食におすすめの旬野菜

安納芋

【安納芋】

ふつうのさつまいもより水分量が多く蜜のようにねっとり甘いのが特徴。さつまいもはビタミンC、葉酸やカリウム、食物繊維も豊富なので、揚げたり焼いたり煮たりマッシュにしたり…と積極的にふだんの食卓に取り入れたいですね。

黒枝豆

【黒枝豆】

「畑の牛肉」といわれる大豆には、タンパク質、ビタミンB1、鉄、カルシウム、葉酸に加えてイソフラボン、大豆レシチンなどうれしい栄養がいっぱいですが、黒豆にはさらにそこに抗酸化効果の高いアントシアニン(ポリフェノール)効果が加わります。茹でるだけでOKの手軽さもポイント。

秋冬の葉物野菜の植え付けを体験!

この日はまず秋冬の葉物野菜4種の植え付けを体験しました。まずは水菜から。今はこんなにかわいらしく頼りなげな新苗が、1キロの大株に育つと聞いてびっくり。

水菜の植え付けが終わると今度は種を直接土に蒔く作業です。「何を蒔こうかな~」と種袋の入った缶をガサゴソとやる健太郎さん、なんだか楽しそうです。この日は、「早池峰菜(はやちねな)」という岩手の伝統野菜、マスタード(からし菜)、小松菜の3種を蒔くことに。種はできるだけ自分の手で育てた野菜から自家採取している「ぼち農」さんですが、葉物に限っては自家採取だと違う品種と交雑しやすく、親と違う性質のものができることがあるためむずかしいのだとか。とはいえ市販の種を使う時も、F1種(人工的に交配された一代限りの品種)ではなく在来種にこだわっています。

「10月の終わりぐらいから間引き(込み合った部分の葉を収穫し、野菜の生育を促すこと)を繰り返しながら、冬の終わりまで採りつづけて、最後は菜の花まで採り切ります」


水菜の新苗は、等間隔を空けて土に植え付けます。このあと置き肥をして、畝全体を覆うように不織布のカバーをかけます。これは虫除けと保温・保湿のため。

早池峰菜(はやちねな)の種。指でつまんで筋状にぱらぱらと土に蒔き、そっと土をかぶせます。ごま粒ほどの小さな種から立派な青菜が育つなんて、生命の不思議を感じずにいられません。

夏に植えた黒豆がこんなに!今日は枝豆でいただきます

植え付けが済むと、
「じゃあお昼に食べる黒枝豆を採りにいきましょうか」と涼子さん。黒豆といえば、夏に取材斑も一部植え付けのお手伝いをしましたっけ。どんな姿になったのかと胸をときめかせつつ、別の畑に向かうと、にょきにょき伸びて茂った枝ぶりにびっくり!

「豆類って、痩せた土でもしっかり育つんです。逆に肥料を与えすぎると葉や茎に栄養が回ってしまって豆がしっかり太らないんです」

という話にへえーっと驚き。豆科の植物の根には「根粒菌」というコブのような菌が寄生しており、それが土中の窒素を集めて吸着し、宿主に送り込んでくれるからなのだとか。その栄養が、DNAを次世代につなぐ「豆」に優先的に送り込まれるところに、生存本能のたくましさを感じます。「母体の働きと似ている…」と編集長コツキも感慨深げ。

「10月頭はまだ豆が若くて緑なので、枝豆として食べてもフレッシュですが、だんだん色が黒っぽくなって味わいも変化してきます。10月20日を過ぎると一番ひねた深い旨みが味わえるので、私はその時期のが一番好きですね。ビールより日本酒が合う感じ」

黒枝豆は採ったらできるだけ時間をおかずにすぐ茹でるのがおいしく食べるコツだそう。取材斑もそろそろおなかがすいてきました。

今日の「ぼち農定食」は驚きの充実ベジタリアン!

収穫した黒枝豆のざるを抱えて庭先に戻ると、すでに健太郎さんが食事支度の真っ最中。
どうやら土鍋では新米が炊き上がり、さらに天ぷらの準備らしきものまで…?

「今日は100%植物性のものしか使わないランチを食べていただこうと思って」

無農薬野菜で作る農園ベジタリアンランチ!期待に胸が高まります。

黒枝豆

黒枝豆

まだ青々とフレッシュさの残る黒枝豆の茹でたては、甘く美味。ちなみにこの日の茹で時間は5分ですが、これから黒く熟れていくにつれて、茹で時間も長めにしていくそう。10月末の完熟期には最低12分は茹でるとか。

長なすの揚げびたし

長なすの揚げびたし

ジャパニーズピクリングという品種の長なすは加熱すると果肉がとろっとなめらかに。焼きなすや揚げびたしにおすすめです。

秋野菜の天ぷら

秋野菜の天ぷら

この日は長なすと安納芋、シカクマメ、ハンダマ、バジルを天ぷらに。米粉をさっと水で溶いて衣にするのが健太郎さん流で、これだとサクッと上手に揚がるとか。バジルの天ぷらなんて初めてですが、その爽やかさに病みつき!

黒豆のおからナゲット

黒豆のおからナゲット

畑で採れた黒豆から豆腐を自作したときにできたおからを利用。豆腐や片栗粉も加えてお団子のようにして揚げると、もちもちした食感と滋味ゆたかな風味が広がって、箸がすすみます。

グリーンサラダ

グリーンサラダ

目下すごい繁殖力を見せるクレソンをメインに、ラディッシュの葉やからし菜、アスパラガスチコリを加えて。オリーブオイルと塩だけのシンプルな味付けが、ぴりっと野性味のある爽やかな風味を引き立てています。

新米ごはん

新米ごはん

近くに住む親戚の田んぼから届いたという新米。土鍋で炊き上げられ、みずみずしくピカピカ光っています。

野菜+昆布だしのお味噌汁

野菜+昆布だしのお味噌汁

お椀から立ち上るいい香りのインパクトにまずノックアウト。かつおを使わず、しょうが、にんじん、玉ねぎ、セロリ、ドライトマト、干し椎茸、昆布でじっくりとっただしに、自家製味噌が相まって目が覚めるような鮮烈なおいしさです。

黒豆入りカレー

黒豆入りカレー

カレーもベジタリアン。コリアンダーやマスタード、しょうが、にんにくなどスパイスも自家製です。チャツネの代わりに炒めた柿を加えているので、口当たりはフルーティで、あとからスパイシーさが広がります。

セミドライ柿とストロベリートマト

セミドライ柿とストロベリートマト

さっき畑で採れたばかりのストロベリートマトと、低温のオーブンでじっくりセミドライにした柿をデザートに。人工的ではない自然な甘さと酸味がじんわり広がって、ほんの少量でも深い満足感があります。

「毎年10月の最終土曜に “ボチノーバーフェスト”と銘打って、黒枝豆収穫祭をやるんです。昼から4時ぐらいまで、収穫した黒枝豆とか野菜とか、うちの石窯で焼いたピザを食べてビールを飲んで…。そのあとお風呂に入って、残ったお客さんと夜も飲んで最後は雑魚寝して。それが1年のうちで一番大きいイベントかな」

夫婦そろってお酒が好きで食べることが好き。そして人と語り合うのが好き。1年間、土と向き合い汗水たらして働いてきた2人が、収穫の喜びを親しい人たちと分かち合えるのがこの季節。健太郎さんが手作りしたピザ焼き窯を、たくさんの笑顔が取り囲む風景が目に浮かぶようです。

「去年みたいに水害があったり、大変なこともあるけど、うちで自家採取した種から作った野菜が、代を継いでいくうちに、だんだんこの土地に適応していってるのが分かって面白いです。最初は寒さに弱かったのに霜に負けなくなったりね」

それはまるで、少しずつ深くしっかりこの土地に根を下ろし、試行錯誤を繰り返しながらもよりよい野菜づくりをめざす潮屋さん夫婦の姿と重なるよう。舌と心に深い満足感を与えてくれたベジタリアンランチを終えて、改めて畑と野菜の底ぢからを感じたのでした。

ぼち農さんから届く定期便には、よく見慣れない新顔野菜が入っていて、
おすすめの食べ方を書き記した手紙が添えられているのですが
それを読むたび、探究心豊かで食いしん坊な2人の顔が浮かんできます。
「いろんな野菜を知ってほしい、そしておいしく食べてほしい」
そんな2人の思いを、産育食レシピにも行活かしていきたいですね。
次回はいよいよ最終回。冬の畑ではどんな味覚が待っているのでしょう。

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