産育食を知る

サイエンスアドバイザーの研究室から

産育食ラボ

妊娠~授乳期の食にまつわる「なぜ?」。
最新の医学的知見をふまえて、女性サイエンスアドバイザーがやさしくお答えします。

Vol.10 低出生体重児のリスクを減らす栄養素ってある?―最新の研究から―

低出生体重児(出生時の体重が2,500g未満の赤ちゃんのこと)は、大きくなってから生活習慣病になりやすいとか。そして低体重で生まれる原因は、早産だけではないんです。妊娠中の生活や食事から、低体重児のリスクを減らすことってできるのでしょうか。

答える人
「月とみのり」専属サイエンスアドバイザー
工樂真澄博士(理学)
工樂真澄博士(理学)
神戸大学理学部卒。神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了。分子進化を主なテーマとして パリ11大学、国立遺伝学研究所、理化学研究所で研究を行う。ドイツでの子育て経験もあり。野球少年の一男の母。

BMIの低い女性は要注意!適性な体重増加を心がけ、喫煙は避けて。

日本で低体重で生まれてくる赤ちゃんが増えているってほんとですか?

厚生労働省の統計によると、2500g未満で生まれた赤ちゃんの割合は1993年には6.3%でしたが、2010年には9.6%にまで上がっています。低体重児の割合を減らすことを目的にして厚生労働省も盛んに働きかけています。


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低体重で生まれると大きくなってから病気になりやすいんでしたよね。

はい、生まれたときの体重は、成人してからの病気になりやすさと関係があるようなのです。研究も盛んに行われていて、そのメカニズムも少しずつ明らかになってきています。

低体重にしないようにするには、妊娠中のお母さんはどんなことに気をつければいいのでしょう?

やはりなんといっても食事ですね。厚生労働省の働きかけで平成13年から始まった「健やか親子21(※)」でも、「妊産婦のための食生活指針」が出されています。そこでは妊娠期だけでなく、妊娠前からやせすぎや肥満にならないバランスのとれた食生活が重要だと訴えています。以前の記事でもご紹介したように、妊娠前のBMI値(Body Mass Index=肥満度を示す体格指数)が低すぎるやせ型の女性は、低体重児が生まれる確率が高まると言われています。BMIが18.5以下のやせ型の女性に対し、妊娠中に適切な体重増加(9~12kg)が推奨されているのもそのためなんです。喫煙も低体重児が生まれるリスクを上げると言われていますから、もちろん避けてください。妊娠中に知っておくと役立つ食生活のコツは、こちらも参考にしてくださいね。

特定の栄養素と低体重リスク軽減の関係を調べた、こんな研究も?

バランスよく食べることが大事だということですよね。でも、その中でも特に重要な栄養ってわかっているんですか?

最近おもしろい論文が出ました。妊婦さんの食物摂取と、その赤ちゃんの出生時の体重の関係を調べたたくさんの研究結果を、一つにまとめた論文です。調べられた栄養素は具体的には「オメガ3長鎖脂肪酸、亜鉛、葉酸、鉄、カルシウムそしてビタミンD」です。どれも妊娠中に大切だと言われている栄養素ばかりですよね。これらの栄養素がそれぞれ赤ちゃんの出生時の体重に、どれだけ影響しているかをまとめています。
それではまずはオメガ3長鎖脂肪酸から見ていきましょう。どんな食べ物に含まれているかご存知ですか?

もちろんです!今話題のDHAですよね!

そうですね。サバやいわしなど青魚に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)は胎児の成長、特に脳を含む中枢神経系の発達に欠かせません。もしDHAが成長の最も大事な時期に不足すると、脳の神経の発育に支障が出ます。
論文によると約半数の研究では、妊婦さんの魚類摂取によって出生時体重が改善したとされています。しかしその他の論文の中には、まったく影響がない、または悪い影響があるという結論のものもありました。要するに魚の摂取にも「適量」があるということなんです。魚によっては含まれる水銀を考慮する必要もありますから、例えばクロマグロだったら週に1回約80gが望ましいとされています。お刺身1人前くらいの量ですね。(詳しい資料はこちら

多すぎても少なすぎてもダメなんですね。なんだか面倒なようので、サプリメントで摂っても効果あるんでしょうか?

DHAのサプリメントを摂った妊婦さんのグループから生まれた子どもの出生時体重は、摂らなかったグループの子どもよりもいくらか多くなりました。しかし低体重児が生まれる割合については、あまり違いがありませんでした。DHAは胎児の発育に必須の栄養素ですが、出生時体重に直接は影響しないのかもしれません。

赤ちゃんの体重には直接関係なさそうだけど、発育にはとっても大事なんですね!では亜鉛はどうですか?

牡蠣や小麦胚芽、チーズ、ココアなどに多く含まれる亜鉛は代謝やタンパク質分解酵素に含まれる生理機能に欠かせない成分です。日本で推奨されている妊婦さんの一日の摂取量は10mgです。亜鉛不足だと細胞数やタンパク質合成が減るなどして、胎児は正常に発育できません。

赤ちゃんの出生時の体重への影響は?

今回調べられた46の論文のうち、23の研究で妊娠中に亜鉛を十分に摂ることで、子どもの出生時の体重が改善したそうです。裏を返せば、残り半分の研究では特に影響がなかったということです。また亜鉛のサプリメントの摂取でも低体重児の割合が改善することはありませんでした。

低体重のリスクを減らすためにも、意識してみたい「鉄」。

うーん、DHAと亜鉛はとても大切な栄養ではあるけれど、低体重の予防効果はあるような、ないような…ですね。

ところがどうやら鉄分は影響が大きいようですよ。妊娠期の鉄分の摂取は胎盤の成長、胎児の成長を促すためにとても重要です。厚生労働省の基準で非妊娠時に一日に摂るべき鉄分は約6㎎ですが、妊娠期にはさらに必要です。妊娠初期には2.5mg、中期、末期には15mgを基準に足した分が推奨されています。
鉄分摂取と出生時体重についてのイギリスの論文では、摂取量が増えるごとに新生児の体重が少し増えたとのことです。また最近の25の研究のまとめによると、妊娠中の貧血によって低体重児が産まれやすくなります。特に妊娠初期、中期に貧血を起こすと低体重児のリスクが通常よりも30%増えるそうです。

鉄分は効果ありそうですね!サプリメントでも構いませんか?

サプリメントを摂った妊婦さんのグループでは、子どもの出生時体重が増える傾向があり、また低体重児の割合も減るという結果が得られています。妊婦さんの鉄分の摂取は子どもの出生時体重と深く関わっていて、その効果はサプリメントの摂取でも得られるということですね。
関連記事:「今日からできる!妊娠~授乳期の貧血を防ぐ、鉄摂取のコツ

では、残りの葉酸やカルシウム、ビタミンDはどうでしょう?

葉酸もカルシウムもビタミンDも、胎児の成長に欠かせないことはご存じのとおりですが、こと出生時体重に限って言うと、それらを十分に摂ることが低体重のリスク軽減につながるという有意な結果はまだ得られていません。

こうやってみると、明確に低体重児予防に効果があるといえるのは鉄分だけのようですね。

この論文で挙げられた栄養素だけでみるとそのようですね。でも覚えておいていただきたいことは鉄分だけでなく、どんなに重要な栄養素も単独では決して働くことができないということです。摂取した栄養が体内で必要な物質に代謝されるためにはさまざまな栄養素が必要です。特定の栄養素ばかりに注目しすぎて、サプリメントを摂りすぎるなど全体的なバランスが崩れてしまうのは考えものです。

それはそうですよね。鉄分のサプリだけ摂っていればいいわけではありませんよね。

どの栄養素も胎児の発育には重要です。一つでも不足すると胎児の発育に影響があり、発達具合は胎児の体重に反映されると考えられます。今回の論文でも栄養素はサプリメントだけで補うことはできないとあります。サプリメントはあくまで補助食ですから、日々の食事でどうしても足りないという日だけ摂るようにしましょう。

栄養の摂取には、バランスだけでなくタイミングも重要。

他にも栄養素の摂取で気をつけることがありますか?

胎盤を通して赤ちゃんに栄養が送られるタイミングも大切ですよ。必要な時期に必要な栄養素が十分に送られることで、胎児は正常に発育できるのです。例えば葉酸なら胎児の発育のもっとも初期に必要なので、お母さんが妊娠する3ヶ月前から妊娠初期にかけて摂取した葉酸が重要なのです。
また鉄分は摂取する時期はあまり関係ないようですが、妊娠後期または出産時に妊婦のヘモグロビンの濃度が高いほど、出生時体重が多いことも今回の解析からわかりました。
さらに骨の形成に欠かせないカルシウムですが、胎児の成長に最も多く必要となる時期は妊娠末期です。

妊娠月齢に合わせて、ちょっと食事にひと工夫するのがポイントですね。

最近の調査によると日本だけでなく他の先進国でも、多くの妊婦さんの食事は一日に必要な食物エネルギー量を満たしていません。多彩な食生活を心がけて、楽しく妊娠期を過ごしてくださいね。

《今回ご紹介した論文》

  1. A review of the impact of dietary intakes in human pregnancy on infant birthweight.
    Grieger JA and Clifton VL.  Nutrients. 2014 Dec 29;7(1):153-78.

※ 「健やか親子21」
健やか親子21は平成13年から開始された母子の健康水準を向上するための国民運動計画です。未来を担う子供たちを健やかに育てるための取り組みの方向性や目標を定め、関係機関が一体となって取り組んでいます。「第一次計画(平成13年から26年)では低出生体重児の割合が増加してしまったため、食育や妊婦の喫煙などの対策の見直しが課題とされています。平成27年度からは第2次として新たな10年計画が開始されています。

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