産育食を知る

サイエンスアドバイザーの研究室から

産育食ラボ

妊娠~授乳期の食にまつわる「なぜ?」。
最新の医学的知見をふまえて、女性サイエンスアドバイザーがやさしくお答えします。

Vol.12 食べ物で母乳の味が変わるって、ホント?

おっぱいの匂いや味が、日々微妙に変化していること、そして赤ちゃんの嗅覚や味覚がその変化を敏感に感じ取っていること、ご存じでしたか?おっぱいは赤ちゃんにとって、味や匂いの記憶を豊かに増やす大切なレッスンなんです。

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答える人
「月とみのり」専属サイエンスアドバイザー
山下敦子博士(医学)
山下敦子博士(医学)
遺伝子工学などバイオテクノロジーの知見を背景に、医薬研究の道へ。
製薬会社研究員を経て大阪大学医学部研究員。現在は一女の母。はじめての子育てに奮闘中。

母乳の成分は、食べ物以外にもいろいろな状況を反映して変化します。

母乳の味というと、ほんのり甘いとしかわからないのですが、どんなものが含まれているんですか?

母乳が甘く感じるのは乳糖が多く含まれているからですね。この他に、母乳には脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルといった成分がバランスよく含まれています。どれも赤ちゃんの成長に欠かせない栄養素ばかりですよ。

赤ちゃんは毎日母乳ばかりで飽きないのかな、と思うときがあります。母乳の味はいつも同じなんですか?

母乳の成分はいろいろなことで変化することがわかっています。ですから、母乳の味も変わりますよ。たとえば、出産直後に分泌する「初乳」と呼ばれるものと、分泌が安定してきた頃の「成乳」と呼ばれるものでは成分が変わります。初乳はタンパク質の濃度が高くて色も黄色っぽく、成乳になるとさらっとした白濁色で初乳よりも脂質・糖質の濃度が高くなります。また、一回の授乳中でも出始めの方と後の方では成分が変わります。出始めの方は乳糖や水溶性のビタミンが多く、だんだんと脂質や脂溶性のビタミンの濃度が高くなっていきます。

おかあさんの食べ物によっても変わりますか?

以前お話ししたように、母乳はおかあさんの血液をもとにしてつくられます(vol.5 「母乳はどうやってつくられる?」)。したがって、おかあさんの食べた物によって母乳の成分も変わります。でも、よほど偏った食事でない限り一定の範囲内での変動になります。食べ物以外でも、おかあさんの栄養状態、健康状態、年齢、出産回数、季節、搾乳量、搾乳時刻、搾乳方法などいろいろなことで変化することがわかっています。

母乳ってそんなにいろんなものの影響を受けているんですね。食べ物によって変化しやすい成分はどんなものがありますか?

母乳の成分のうち、食事の影響を受けやすいのは脂質の種類の割合です。脂質全体の量は変わりにくいのですが、たとえば、必須脂肪酸の少ない食事をしていると、母乳中の必須脂肪酸の割合が減り他の脂肪酸の割合が増えます。必須脂肪酸はDHAやEPAなどが含まれ、神経や血管の発達に重要な脂肪酸でしたね( vol.11「妊娠・授乳中に脂質と上手につきあうために」)。それから、ビタミンも比較的食べ物の影響を受けやすい栄養素です。これに対して、ミネラルや糖質、タンパク質は食事の影響を受けにくいとされています。

おっぱいを通して、赤ちゃんは食べ物のことを学んでいる?

いろんな食品をバランスよく摂ることが大事ということですね。ちなみに食べ物の匂いも母乳に移るのでしょうか?

おかあさんがにんにくを食べた後の母乳のにおい成分を調べた研究があります。その結果、母乳中ににんにくの匂いが移ることがわかっています。他の食べ物の匂いも同じように母乳中に移ると考えてよさそうです。食べ物の味というのは、匂いの効果も強く影響します。母乳の成分と匂いの変化により、味もさまざまに変わると考えられます。毎日飲んでいるからこそ、赤ちゃんはわずかな変化でも違う味として感じているかもしれませんね。

赤ちゃんには味や匂いがわかるのでしょうか?

赤ちゃんはお腹にいるときから味覚や嗅覚の発達が始まっています。妊娠8か月ごろの赤ちゃんは味や匂いを感じることができるといわれています。そして、出生後の赤ちゃんでは甘味やうま味などの好ましい味と、苦味や酸味などの好ましくない味の識別をして表情を変えるなどの反応をすることがわかっています。また、匂いについても自分のおかあさんのおっぱいの匂いと他のおかあさんのおっぱいの匂いを区別できるようです。


胎児のころからもう味や匂いを感じてるなんて驚きです!そうすると、授乳期間中は匂いの強い食べ物や辛い食べ物は避けた方がいいのでしょうか?

先ほどのにんにくを食べたおかあさんの母乳について、実際に赤ちゃんに飲ませ、赤ちゃんの様子を観察した研究があります。その結果、おっぱいをいつもより長くくわえる赤ちゃんがいたり、顔をそむける赤ちゃんもいたようです。赤ちゃんにもいつもと違う匂いが感じられていることがわかります。しかし、その違いに対する反応は赤ちゃんによって違う反応になるようです。

赤ちゃん一人ひとりにも嗜好があるんですね。

赤ちゃんはおかあさんの食べた物の味や匂いを母乳を介して経験していきます。この経験によって安全な食べ物を学習していくと考えられています。したがって、授乳期間中でも香辛料を使った食べ物を避けることはありませんよ。でも、赤ちゃんが初めての味になじめないようでしたら、しばらく食べるのを控えて、少しずつ試してみるといいかもしれませんね。

なるほど、母乳を通して赤ちゃんに食べ物のことを教えてあげるということなんですね。

その通りです。実際、授乳期間中におかあさんがいろいろな食品を摂っていると、離乳後も食べ物の選り好みが少なく、新しい味にチャレンジする意欲が強い子どもに育つといわれています。

たしかに、親子で好きなものや苦手なものが似ているケースが多い気がします。

食べ物の好き嫌いは母乳の味だけで決まるわけではありませんので、苦手なものまで無理に食べることはありませんよ。でも、同じ食品に偏ることなくできるだけたくさんの種類の食品を摂ってみてくださいね。

おっぱいをあげながら食べたもののお話をしてあげると毎日の授乳が楽しくなりそうですね。

妊娠・授乳期から、さまざまな味や匂いの体験を赤ちゃんに贈ろう

さらに、動物実験からは羊水中にも食べ物の味や匂いが移ることがわかってきています。羊水中で経験した味や匂いは記憶され、離乳後や成人後でも好む味や匂いになることがわかっているんです。

そうなんですか!では妊娠中の食事も大切ですね。

そう考えてもよさそうですね。つまり、妊娠・授乳期を通して赤ちゃんへの食育が始まっているといってもいいかもしれません。子どもたちが野菜や果物を食べるかどうかは、その味や匂いが好きか嫌いかということが重要になります。赤ちゃんのうちから野菜などの味や匂いに少しずつ慣れておくと子どもになってからも抵抗感が少ないのかもしれませんね。妊娠・授乳中には、赤ちゃんにいろいろな味や匂いを体験させてあげるつもりでさまざまな食品を摂ってみてください。

赤ちゃんにとっておいしい母乳を出すためにはどんな食事がいいのでしょうか?

おいしさ、というのは味覚や嗅覚などの感覚だけでなく、経験や情動といったさまざまな情報を脳で処理することによって判断されるものです。赤ちゃんにとっては、おかあさんとのスキンシップで安心感をもって飲む母乳はどれもおいしいものとして記憶されていくのではないかと思います。栄養面からはいろいろな食品をバランスよく食べることをおすすめします。そして何より、おかあさん自身が楽しく食事をして健康でいること、赤ちゃんに安心感を持って母乳を飲ませてあげることも大切にしてくださいね。

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