最新医学と連携!産育食ラボVol.13 妊産婦のストレスが赤ちゃんの健康に影響する?〈前篇〉

最新医学と連携!産育食ラボ

妊娠中や産後は、体調や環境の変化で不安になったり落ち込んだりするもの。でも度を過ぎたストレスは、赤ちゃんの健康に望ましくない影響を及ぼしてしまうかも…。ストレスとうまく向き合いながら、母子ともに健やかに過ごすにはどうすれば?

工樂真澄博士(理学)

「月とみのり」専属サイエンスアドバイザー
工樂真澄博士(理学)

神戸大学理学部卒。神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了。
分子進化を主なテーマとして パリ11大学、国立遺伝学研究所、理化学研究所で研究を行う。ドイツでの子育て経験もあり。野球少年の一男の母。

妊娠中の過度のストレスや不安は、胎盤の血流が悪くなる原因に?

  • 前回まで、食べ物がお腹の赤ちゃんに与える影響を見てきました。今回のテーマは「ストレス」ですか?
  • 妊婦さんの食べる物は直接お腹の赤ちゃんに届きますから、何よりも大切です。でも「ストレス」のように「間接的」と思えるようなことが、実は大きな影響を与えてしまうことってあるんですよ。妊娠中は何かとストレスがかかりますよね。どんなものがあるか挙げていただけますか?
  • たくさんありますよ!男の子か女の子か周囲からうるさく言われたり、最初の頃はつわりでひたすら辛かったり…。体調が悪くて思うように仕事ができないとか、何よりお腹が大きくなってきて思うように動けなくなってくると、どうなっちゃうんだろうと不安になりますね! でも、こういうのって、お腹の赤ちゃんにも伝わっちゃうんでしょうか?
  • まさにその通りなんです。そういう妊娠期の悩みって、本当は楽しい悩みだから「期待」に変えられれば何よりです。それに生きていく上で多少のストレスはつきものですから、要はストレスを溜め込まず、うまく気分転換できれば深刻な問題にはならないんです。でも、相談する相手がいなくて一人で悩んでばかりだと、気分の落ち込みに拍車がかかってしまい「うつ病」に陥ることもあるんですよ。
  • わかる気がします。周りの人が理解してくれないと余計に落ち込みます。でもお母さんが精神的にまいると、それが赤ちゃんに伝わるんですか?
  • 妊娠中のストレスや不安感は胎盤への血流に影響することから、お腹の赤ちゃんの発育に少なからず悪影響を及ぼすと考えられます。興味深い報告があるんですよ。妊娠中にうつの症状を示したおかあさんから生まれた1歳半の赤ちゃんを調べると、行動や認知能力に遅れのある割合が高いことがわかったんです。また4歳の時点でも、行動や感情表現に問題を示す割合が高いことも報告されています。

「マタニティブルー」と「産後うつ」は違う!まずは不安を誰かに伝えてみて。

  • 驚きました!食べる物が赤ちゃんに影響があるっていうのは何となくわかるんですけど、メンタルが影響するとは初耳です。
  • 「産後うつ」という言葉を聞かれたことがあるでしょう。出産後1カ月ほどしてから、不眠や気分障害、食欲不振などのうつ症状が出る疾患です。産後うつはおかあさんだけでなく、子どもの精神状態にも長期に渡って影響を与えると報告されています。イギリスで行われた調査によると、母親が産後うつを経験した場合、その子どもが16歳までにうつ症状を示す割合は40%にも上るそうです。産後うつを経験しなかった母親の子どもではその割合は12.5%なので、子どもの心への影響は決して少なくありません。
  • え!母親の産後うつと、子どもの成長後のうつ発症率って関係あるんですか?私自身、出産してすぐに、やたらと涙もろくなったり、ちょっとのことで落ち込んだりした時期がありましたが大丈夫でしょうか…。
  • それは「マタニティーブルー」です。ちょっとしたことで涙が出る、集中力がなくなる、気分が落ち込む、不安になる、眠れないなどが典型的な症状です。主な原因は妊娠出産に伴うホルモンの変化ですが、マタニティーブルーは出産経験者の約30%から50%の方が経験するもので、決して病気ではありません。マタニティーブルーは出産して3日目から10日くらいに症状が出ることが多いですが、たいていの場合には約2週間で自然に改善しますよ。
  • ちょっと安心しました。でも妊娠中とか出産直後とか、わからないことだらけで不安になる気持ちよくわかります。自分一人だけで頑張っているような…。
  • そうですね。でも解決策はやはり「おしゃべり」ではないでしょうか?女性は誰かと話すだけで、けっこうストレス発散できるんですよ。少しでも気になることや不安なことがあれば、まずはかかりつけのお医者さんに相談してみましょう。また産婦人科や自治体で妊娠セミナーを行っているところもたくさんありますから、ぜひ積極的に出かけてみましょう。同じような悩みを抱える方と話をするだけでも気が楽になり、出産を前向きに考える助けになりますよ。
  • マタニティブルーと産後うつを見分ける方法はあるんですか?
  • マタニティブルーが自然に治っていくのに対し、症状が長く続き改善の様子が見られない場合は産後うつの可能性もあります。産後うつは、出産を経験された方の約3%が発症すると言われています。重症化を防ぐために、該当する症状がある方は早目に医療機関で受診できるよう、周囲の人もサポートしてあげたいですね。

抗ストレス力を高めるためにも、良質の食事と睡眠を大切に。

  • まくストレスを減らすにはどうしたらいいのでしょう?
  • まず生活を整えることですね。心配事があるならそちらを解決するのが最優先でしょう。その上で、やはり大切なのは食生活と睡眠ですね。
  • 食べることと寝ること。生活の基本ですね。
  • 妊娠中は食欲のコントロールがむずかしくて、食べることそのものがストレスという方もおられるかもしれませんね。例えばつわりで思うように食べられないときは、無理に食べる必要はないんですよ。つわりが治まったら、徐々に食べていきましょう。
  • でもその反対に妊娠後期はやたらとお腹が空いて、暴飲暴食することも…。
  • バランスよく食べていればいいんですけどね。最近の報告によると、妊娠期に乱れた食生活を送っていると、ストレスを抱えやすくなるのだそうです。それに妊娠期の暴飲暴食は、出産後の肥満につながりやすいとも報告されています。
  • 乱れた食生活もストレス耐性を弱くする元なんですか…。反省します。
  • それでは後篇では、妊娠期や授乳期のストレスやうつ症状を予防する栄養素や睡眠について一緒に考えていきましょう。

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