最新医学と連携!産育食ラボVol.16そうだったの?葉酸と遺伝子の意外な深~い関係〈前編〉

最新医学と連携!産育食ラボ

妊娠中に大切といわれる葉酸ですが、体内でどんな働きをしているかはイメージしにくいもの。でも「DNA形成や遺伝子の働きに影響している」と聞くと、ちょっとドキッとしますよね。そんな葉酸と遺伝子の深~い関係を2回にわたって徹底解説!

工樂真澄博士(理学)

「月とみのり」専属サイエンスアドバイザー
工樂真澄博士(理学)

神戸大学理学部卒。神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了。
分子進化を主なテーマとして パリ11大学、国立遺伝学研究所、理化学研究所で研究を行う。ドイツでの子育て経験もあり。野球少年の一男の母。

ホウレンソウから発見された葉酸。実は遺伝子の素を作る縁の下の力持ち!?

    • 突然ですが、「ポパイ」って知ってますか?
    • アメリカの古いアニメですよね?「ポパイ・ザ・セーラーマーン♪」って、ポパイは水兵さんなんですよね!
    • お若いのに良くご存知ですね! それでは、そのポパイがパワーアップしたい時に食べる物、知ってますか?
    • もちろんですよ。ホウレンソウの缶詰でしょ? 噛まずに流し込んでましたけど(笑)。
    • そうです。今日はそのホウレンソウから見つかった「葉酸」がテーマです。葉っぱから見つかったから「葉酸」というのですが、ビタミンの一種です。
    • そうなんですか。産婦人科や母親セミナーでも、「葉酸は大事!」と聞かされていたので、妊娠中はブロッコリーをたくさん食べましたよ。
    • 葉酸の重要性は以前、「vol.1葉酸のなぜ?どう摂ればいい?」でも取り上げましたね。まず葉酸が不足するとDNAができません。お聞きになったことがあると思いますが、DNAは「デオキシリボ核酸」のことで、遺伝子はDNAからできているんですよ。
    • 遺伝子の素ってことですか。それって一番重要じゃないですか!
    • DNAは「塩基」というものが連なってできていますが、塩基を作るためには葉酸が必要なのです。
    • 葉酸が体の中で変化して塩基になるんですか?
    • そうではないんですよ。葉酸は塩基を作る手助けをしているのです。
      この図は塩基が出来る工程を模式的に表したものです。葉酸が姿を変えながら塩基を作り出していることがわかります。
  • なるほど、葉酸が塩基になるわけではなく、塩基を作るお手伝いをするのですね。
  • その通りです。例えば電化製品や車の工場を想像してみて下さい。いくら部品だけ豊富にあっても、冷蔵庫や車はできません。工場でロボットや人の手によって組み立てられて、はじめて製品になります。葉酸は塩基の合成工場の作業員といったところです。

葉酸不足でDNA生成に支障をきたすとどうなる?

  • なるほど。もし妊娠中のおかあさんが葉酸をきちんと摂らなかったらどうなりますか?
  • 想像してみてください、もし工場に部品だけあって作業員が誰もいなかったら…。製品の生産はストップしてしまいます。
  • 塩基が作られないと、当然DNAもできなくなりますね!
  • そのとおりです。DNAが足りなくなるということは、おなかの赤ちゃんの成長にさまざまな問題を引き起こしますが、最も影響が大きいのは胎児の神経管の形成です。「神経管」というのは、いずれ発達して脳と脊髄になる一本の管のようなもので、受精してから3週間頃から形成されます。背中に沿ってできた左右の山のてっぺんが、それぞれ真ん中へ向かって巻き上がるように成長して、やがて丸い一本の管になります。これが神経管です。
  • 受精して3週間というと、まだ妊娠に気づきもしないぐらい初期ですが、もうそんな大切なところが形成され始めるんですね。葉酸が足りないとどうなるのですか?
  • 葉酸不足で塩基の生産が止まるとDNAの合成が止まります。さらに細胞の増殖もストップしてしまい、左右の山が成長できなくなります。結果として神経管が正常に発達できず、神経管が閉じないまま成長する「神経管閉鎖障害」という奇形になることがあります。
  • 神経管が正常に閉じないままだと、具体的にはどんな症状を引き起こすんでしょうか。
  • 背中から髄膜や脊髄が飛び出した二分脊椎や、頭部奇形の無脳症など、生涯、治療や保護が必要になったり、残念ながら生後すぐに亡くなってしまったりすることもあります。もちろん、葉酸不足だけが神経管閉鎖障害の原因ではありませんが、おかあさんが葉酸不足にならないよう心がけてリスクを避けるに越したことはありませんね。
  • なんにも知らずに食べてましたが、葉酸ってそんなに大事なんですね。
  • そうなんです。さらに近年、葉酸は塩基を作るお手伝いをするだけではなくて、遺伝子の働きを制御する上でも重要な役割を果たしていることがわかってきたんですよ。後編では、その話題の「エピジェネティクス」というテーマについてお話ししましょう。

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