産育食を知る

サイエンスアドバイザーの研究室から

産育食ラボ

妊娠~授乳期の食にまつわる「なぜ?」。
最新の医学的知見をふまえて、女性サイエンスアドバイザーがやさしくお答えします。

Vol. 22 クイズで考える「妊娠期、これって食べても大丈夫?」

食べるものにナーバスになりがちな妊娠期。でも見方を変えれば、それはよい健康習慣を身につけるひとつの大きなチャンス。サイエンスアドバイザーとのクイズを通して、食の正しい知識を学んでいきましょう。

答える人
「月とみのり」専属サイエンスアドバイザー
工樂真澄博士(理学)
工樂真澄博士(理学)
神戸大学理学部卒。神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了。分子進化を主なテーマとして パリ11大学、国立遺伝学研究所、理化学研究所で研究を行う。ドイツでの子育て経験もあり。野球少年の一男の母。

妊娠中のアルコール、その影響力ってどれぐらい?

みなさんお元気ですか?
今回は妊娠中の食べ物について、クイズ形式で一緒に考えていきましょう。最新の研究成果もご紹介しますよ。
妊娠中の方も、これから妊活という方も、ぜひ挑戦してみてくださいね。

おまかせください、クイズは得意なんです!
読者代表としてがんばります!

では早速はじめましょう。第一問はこちら!

妊娠中に女子会のお誘いが。久しぶりだしちょっとくらいハメをはずしてもいいかな?さて、お酒について正しいことを言っているのはどれ?

(1) お母さんが食べたものや飲んだもの、全てが赤ちゃんに届くわけではない。
赤ちゃんにとって悪いものは胎盤でブロックされるから、妊娠中でも普段通りにお酒を飲んでいい。

(2) 胎盤がブロックできるのは、比較的大きめのものだけ。
アルコールは胎盤を通過して、赤ちゃんの脳の発達を妨げてしまうから、お酒は控える。

(3) アルコールを飲むと血の巡りがよくなり、赤ちゃんにも酸素が届きやすくなるから、積極的に飲んだほうがいい。

これは簡単ですよ~!どれもまともらしく聞こえますが、妊娠中にアルコールは絶対ダメ!正しいのは②番です。

正解です。「胎盤」は、お腹の赤ちゃんとお母さんを隔てる「フィルター」のよう
な役目をしていますね。ですから、お母さんが口にしたものが、そのまま赤ちゃんに届くわけではありません。でも、アルコールのような分子量の小さい物質は、胎盤を簡単に通り抜けてそのまま赤ちゃんに届いてしまいます。

大人がお酒を飲むと酔っぱらいますよね。お腹の赤ちゃんにアルコールが届くと、どんなことが起こるんですか?

妊娠中のアルコールが怖いといわれる理由は、赤ちゃんの発達に多大な影響を及ぼすからです。妊娠期のアルコールによって赤ちゃんに起こる異常を「胎児性アルコール症候群」といいますが、たとえば脳が十分に育たず精神発達が遅れたり、行動がおかしくなったりします。また、ひどい場合には顔面や頭部の奇形を引き起こすこともあります1)2)-p81。

大人だって飲み過ぎると頭がフラフラしますもんね。
脳に影響するって、すごくよくわかります。

妊娠中の飲酒はどの時期であっても赤ちゃんの発育に影響しますが、特に妊娠初期では、頭部の発達や顔面奇形のリスクが増大します1)4)-p33。初期はまだ妊娠に気づかないこともありますが、この時期の飲酒は赤ちゃんに重大な障害を残すおそれがあります。少しでも妊娠の可能性のある方は、お酒は我慢しましょうね。

アルコールが赤ちゃんに与える影響は一生続くわけですから、妊娠中くらいはガマンですよね!

妊娠中にタバコやカフェインを避ける理由、正しく知っていますか?

妊娠中にガマンしてほしいのはタバコも同じ。妊娠中の喫煙によって、低出生体重児になりやすいといわれています。以前、こちらの記事でも、タバコが赤ちゃんのDNAにたくさんの変化を起こすことをご報告しましたね。最近の報告によれば、喫煙していた妊婦の胎盤組織内ではミトコンドリアという細胞内小器官のDNA量が少なく、またメチル化という変化をたくさん起こしている箇所があることがわかりました3)。タバコによるこれらの変化が、赤ちゃんの発育を妨げると考えられます。「受動喫煙」による影響も同様ですから、妊婦さんのいるご家庭では喫煙を控えましょうね。
では、第二問目にいきましょう。

アルコールに加えて、妊娠中に控えたいのが「カフェイン」です。
さて、次の飲料の中で最も多くカフェインを含むのはどれ?

(1) コーヒー
(2) 緑茶
(3) 紅茶
(4) ウーロン茶

えっと、妊娠中はコーヒーは飲まないようにしましたが、けっこうウーロン茶は飲んでましたね。。答えは(1)番「コーヒー」かな?

正解です!同じ容量であれば、含まれるカフェインの量はコーヒーが最も多く、紅茶はその半分です。煎茶とウーロン茶はコーヒーの3分の1ですね。気をつけてほしいのですが、緑茶でも玉露などはコーヒーの倍以上のカフェインを含みます4)-p35。

カフェインの量は少なくても、煎茶やウーロン茶は何杯も飲んでしまいますから、気をつけたほうがいいですよね。カフェインはお腹の赤ちゃんに、どんな影響があるのですか?

流産や低出生体重児のリスクが指摘されています。最近の研究によると、カフェインを過剰摂取した妊娠マウスから生まれた子マウスでは、高血圧になりやすく、心臓の形態や機能に異常が見られたそうです。また子マウスの心臓ではDNAの化学修飾が起こり、遺伝子の発現パターンが変化していました。さらに生殖細胞のDNAにも変化が見られました。生殖細胞の変化は、その先の世代にも影響が及ぶ可能性があります5)。ヒトでも、妊娠中は通常よりも体にカフェインが残りやすいと報告されていますから、お茶だからといって飲み過ぎはよくありませんね。

孫の代まで影響するとなると、少しくらい我慢しなければいけませんね!
最近はデカフェもありますし、コーヒー党もそれほど辛くはないですよ。

食べ物ではありませんが、「薬」にも気をつけてくださいね。たいていの薬は分子が小さいため胎盤をくぐり抜けやすく、胎児の形成に及ぼす影響は少なくありません2)-p379。妊娠の可能性がある方でお薬が必要な場合には、必ずお医者さんに相談してください。また、薬の世話にならなくていいように、日頃から健康管理することも大切なことですね。

魚は体にいいというけれど?妊娠中は気をつけたいことも!

では、次の質問です。

日本食といえばなんといっても「お寿司」。
魚も豊富に食べられるし、妊娠中は毎日でもお寿司を食べてもいい?
○か×でお答えください。

毎日お寿司はいくらなんでもちょっと…。
でも、お魚は体にいいっていうし、答えは「◯」じゃないですか?

残念ですが答えは 「×」です。お魚が体にいいというのは本当です。魚に多く含まれるEPAやDHAなどの不飽和脂肪酸は、神経系を作るには欠かせない栄養素です。もし、魚介類を全く食べないと神経系が十分発達できず、知能にも影響することが報告されています。

そうですよね。そんな栄養たっぷりのお魚なら、毎日食べたほうがいいのでは?

そうしたいところですが、妊婦さんは少し注意が必要です。
魚の中には微量ですが、水銀を含むものがあります。大人や子どもが通常食べている程度なら健康への被害はほとんどありませんし、体外へ水銀を排出する仕組みもあります。
しかし、お腹の赤ちゃんは積極的に水銀を排出することができません。ため込んだ水銀が一定以上になると、その毒性によって発達が妨げられる可能性があります。
ですから、たとえば本マグロやメバチマグロなどを食べるのは、妊婦さんであれば刺身1人前(約80g)を週1回程度にしたほうがよいとされています。ほかにも妊婦さんが気をつけたほうがよい魚の種類や摂取量は、厚生労働省ウェブサイトに詳しくありますから、ぜひ一度ご覧くださいね。(厚生労働省:魚介類に含まれる水銀について)

全く食べないのはよくないけど、食べ過ぎもよくないわけですね。
他にも注意したほうがいい食品はありますか?

よくいわれるのはビタミンAですね。それほど神経質になる必要はありませんが、ビタミンAは不足しても、また過剰に摂取しても、胎児の発育に悪影響を及ぼすことは知っておくとよいでしょう。

ビタミンAって、ニンジンとかカボチャとか緑黄色野菜に多く含まれていますよね。体にいいんじゃないんですか?

その通りです。ただし、極端にビタミンAが過剰になると胎児の奇形を招く恐れがありますから、妊娠中はサプリメントなどでビタミンAをとることは避けましょう2)-p298。またその反対に、不足してもよくありません。ビタミンAは赤ちゃんの皮膚や粘膜を作るために欠かせない栄養素ですから、毎日の食事にぜひ取り入れたいですね。最近発表されたマウスを使った研究では、ビタミンA不足の妊娠マウスから生まれた子マウスでは、認知機能が通常より劣っていたそうです6)。

食べ過ぎても、不足してもダメなのですね。どのくらい食べればいいのか迷いますね。

難しく考えなくていいのです。他の栄養素にもいえることですが、たくさん食べればいいというわけでもありません。特定の栄養素だけに偏ることなく、日々の食事の中で何でもバランスよく食べるようにしましょう。

妊娠期はよい健康習慣を身につけるチャンス!ポジティブにとらえて楽しんで。

れではいよいよ最後の問題ですよ。

一昔前には「小さく生んで大きく育てる」と言われたものですが、これって正しいのでしょうか?
○か×でお答えください!

これ聞いたことあります。小さいほうが出産もラクだし、ちょっと小さ目でも、生まれてからたくさんおっぱいを飲んで元気に育てばいいんですよね。だから「○」だと思います!

残念ながら「小さく生んで大きく育てる」は、最近の研究結果から考えると必ずしもよくないと言われています。「月とみのり」でも何度か「DOHaD説」をご紹介していますよね。これはイギリスのダビット・バーカー博士が提唱したもので、「妊娠初期から胎児期、授乳期の栄養状態が、赤ちゃんの将来の健康に影響を及ぼす」という説です。妊娠中に栄養が不十分だった母親から産まれた子供は低出生体重児になりやすく、さらに成人してから、心臓病など様々な生活習慣病を引き起こしやすいようなのです2)-p81。日本では痩せ過ぎの女性が多く、また低出生体重児も増えていることから、厚労省は過度なダイエット習慣に警鐘を鳴らしています7)

時代が変わると子育ても変わるというワケですね。だからといって、太り過ぎもよくないですしね。妊娠中は気をつけなければならないことが多すぎて、気が滅入ります…。

妊娠前とは生活が一変して戸惑うことも多いと思います。でも、妊娠は人生のほんの短い時期だけ。でもそこで身につけた健康習慣や正しい栄養の知識は、きっとおかあさんだけでなく赤ちゃんにとっても一生続く大切な宝物になるはずです。そう思うと、なんだか特別な時間だと思えませんか? 周囲の助けも借りながら、どうぞ楽しいマタニティライフを過ごしてくださいね。

《参考文献》

  1. ラーセン最新人体発生学 p356 西村書店
  2. 病気がみえる vol.10メディックメディア
  3. 『標準生理学』p530小澤瀞司、福田康一郎 医学書院
  4. Placental mitochondrial DNA and CYP1A1 gene methylation as molecular signatures for tobacco smoke exposure in pregnant women and the relevance for birth weight. Janssen BG et al, J Transl Med. 2017 Jan 4;15(1):5.
  5. 『Q&Aで学ぶお母さんと赤ちゃんの栄養 周産期医学Vol.42 増刊号2012』東京医学社
  6. In Utero Caffeine Exposure Induces Transgenerational Effects on the Adult Heart. Fang X et al, Sci Rep. 2016 Sep 28;6:34106.
  7. Marginal vitamin A deficiency facilitates Alzheimer’s pathogenesis.Zeng J et al. Acta Neuropathol. 2017 Jan 27.
  8. 厚生労働省 若い女性の「やせ」や無理なダイエットが引き起こす栄養問題 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-006.html

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