株式会社みらいたべる 産育食ラボ

意外な事実も?知っておきたい「貧血」まわりのあれこれ

【はじめに】

妊娠すると貧血になりやすいと聞いたことがあるかもしれません。貧血とは血液が薄くなった状態です。血液が薄くなるとはどういうことでしょうか。どうして妊娠中には貧血になりやすいのでしょうか。今回は妊娠中・授乳中の貧血について詳しく説明します。また、貧血を予防するための対策を提案したいと思います。

【血液の成分と役割1

血液は体重の7-8%を占めており、細胞からなる「血球成分」と液体からなる「血漿成分」に分けられます。血球成分には赤血球、白血球、血小板が含まれます。血液の約4割が血球成分、約6割が血漿成分になります。以下にそれぞれの成分の主な役割を紹介します。

血液は骨の内部にある骨髄という場所でつくられます。骨髄には造血幹細胞という細胞があり、この細胞が増殖と分化を繰り返すことですべての血球成分がつくられます。一方、老化した血球成分は脾臓において破壊されます。

【貧血の原因2

貧血とは血液が薄くなった状態といいました。しかし、厳密には貧血とは血液の中でも赤血球にあるヘモグロビンというタンパク質が少なくなった状態をいいます。ヘモグロビンは酸素と結合し、体内の各所に酸素を運ぶ役割をもっています。したがって、ヘモグロビンが減少するとまず全身で酸素不足が起こります。酸素は栄養素の代謝反応にも細胞の機能維持や増殖にも必要です。その酸素が不足すると全身の機能が低下することになります。

ではヘモグロビンが減少するのにはどのような原因があるのでしょうか。今回は栄養素の不足が原因となるものに注目して説明します。栄養素不足によるヘモグロビン減少の原因は2つに分けられます。一方はヘモグロビンを合成する成分が不足すること、そして他方は赤血球の分化・増殖に関わる成分が不足することです。まず、ヘモグロビンを合成する成分について説明します。ヘモグロビンが酸素を運搬できるのは、ヘムという分子を結合しているからです。ヘムの中心には鉄分子が結合しています。このヘムにある鉄が酸素と結合することで酸素の運搬が可能になっています。したがって、からだに鉄が不足している状態ではヘムの合成が低下し、ヘモグロビンも減少します。貧血の主な原因の一つにこのような鉄不足があります。また、ヘムが合成される化学反応ではビタミンB6、銅、亜鉛が必要な反応があります。したがってこれらの栄養素の不足も貧血の原因になることがありますが鉄不足と比べるとそれほど多くの例があるわけではないようです。

さて次に赤血球の分化・増殖について説明します。赤血球は骨髄内において造血幹細胞から多段階の分化と増殖を経て完成します。分化とは専門の機能を備えた細胞へ変化していくことをいいます。赤血球の分化・増殖を促進するのは主にエリスロポエチンと呼ばれるホルモンです。エリスロポエチンは血液中の酸素分圧を指標に主に腎臓で発現します。腎臓の疾患によりエリスロポエチンの発現が低下すると、赤血球が不足して貧血になることがあります。ところが、エリスロポエチンの機能が正常であっても赤血球が増殖しない場合があります。赤血球が増殖するためには葉酸やビタミンB12といったDNA合成に関与する栄養素が必要になります。したがって、葉酸、ビタミンB12が不足した状態では赤血球の増殖が抑えられ、ヘモグロビンの量も減ってしまうため、貧血となることがあるのです。

尚、今回は栄養素不足が原因となる貧血について説明しておりますが、貧血の原因は様々です。中には他の疾患が原因となる二次的な症状としての貧血もあります。貧血の診断を受けた場合には医師の指示に従って治療を受けてください。

【貧血の症状2

貧血はヘモグロビンが減少し、全身的に酸素が不足している状態といえます。細胞は酸素が不足すると必要な化学反応が行われなくなり、機能が低下してしまいます。このような状態は、からだのだるさとして現れることが多いようです。特に、脳での酸素不足はめまいとなって現れることもあるようです。また、全身の酸素が不足すると、それを補うために血液を送る量を増やそうと心拍数を上げるため動悸を感じることがあります。同じように酸素をたくさん取り込もうとして息切れを感じることもあります。他にも顔色が悪くなったり、寒さを感じやすくなることがあります。貧血による症状には個人差があります。貧血が徐々に進行した場合には体が低酸素状態に慣れてしまうために自覚症状が無い場合もあります。実際、血液検査によってはじめて貧血であることがわかる人が多いようです。

ところで貧血のなかでも鉄欠乏性貧血と関連した症状として異食症というものがあります。異食症とは特定の非栄養物質を反復的、継続的、脅迫的に接触する食行動異常です。摂食するものとしては土、氷、毛髪、紙、ガラスなどが報告されています。異食症の原因はまだ詳しくわかっていませんが、妊娠、精神疾患、栄養障害、文化的習慣などが挙げられています。鉄欠乏性貧血も異食症の原因の一つと考えられています。日本国内における研究では、調査した鉄欠乏性貧血患者の約16%が異食の経験があることがわかっています3。鉄欠乏性貧血と関連した異食症については、鉄剤の投与において速やかに改善する例がほとんどのようです。貧血になると必ず異食症になるという訳ではありませんが、氷などを食べ続けている場合には貧血になっている可能性があるかもしれません。

【どうして妊娠中は貧血になりやすいのか4,5

妊娠中の母体では児を育てるための変化と出産に備えた変化が起こります。血液を含む循環器においても同様です。例えば、児を育てるために子宮の血流量を増やし、普段の10倍以上にもなります。また、母体の体重増加、児の成長を支えるために血液の量を約1.5倍増やします。そして、出産時の出血に備えるためには血液の増加と出血を止めやすくする準備が必要になります。

このような変化は妊娠初期から始まります。例えば血漿量は妊娠6週ころから増加し始め出産までに約40%増加することがわかっています。これに対して赤血球の増加はやや遅れ、妊娠8週頃から増加し始め、出産までに15-30%増加することがわかっています。このように妊娠中には血漿量の増加に対して赤血球の増加が少ないために貧血の状態になります。しかしながらこれは自然な現象であり、生理的貧血あるいは希釈性貧血と呼ばれます。生理的貧血の意義についてはまだ詳しくわかっていませんが、母体の血液の粘稠度が低下することで胎盤における血流が増加し、胎児への酸素や栄養素の供給効率が上昇するのではないかと考えられています。妊娠初期以降も血漿量の増加率に対して赤血球の増加率が低いために生理的貧血の状態は続きます。妊娠28~36週あたりから赤血球の増加率が増えはじめ、貧血の状態が軽くなってくるとされています。 ところが、妊娠前からの栄養状態によっては貧血の状態が続いたり、貧血の症状が重くなることがあります。前述のように貧血の原因には鉄をはじめ、葉酸、ビタミンB12、ビタミンB6、銅、亜鉛といった栄養素が関与しています。これらの栄養素は胎児にも供給されるため、普段からしっかり摂れていないと母体に不足しやすく貧血になるリスクが高くなります。

妊娠中、軽度から中等度の母体の貧血は周産期予後にほとんど影響しないとされています。一方、重度の場合では、羊水量の減少や胎児の脳血管拡張、胎児心拍異常と相関し6,7、早産や自然流産、低出生体重児、胎児死亡などのリスクが増加するといわれています7。ただし、母体の貧血と胎児の発達については、まだ議論が続いており、関連が低いとする見解もあります。とはいえ、貧血の状態は決して望ましいものではありません。普段の食事を見直して、鉄、葉酸、ビタミンB12、ビタミンB6、銅、亜鉛といった栄養素を積極的に摂取し、貧血の予防に役立ててください。

【妊娠中の血圧低下8,9

妊娠中には立ちくらみを感じることがあり、そのため貧血になっていると思うことがあるかもしれません。しかしながら、妊娠中の立ちくらみについては、貧血以外にも原因が考えられます。

妊娠中には血圧が低下しており、反射的な血管収縮も低下しています。これは妊娠中に増加するプロゲステロンが血管拡張作用を持っているためです。通常であれば、起立時には反射的に血管収縮が起こることにより血圧が保たれます。これは脳の血液循環を維持するためにおこります。しかしながら、妊娠中は血液量が増加しているにも関わらずプロゲステロンの作用により反射的な血管収縮が低下しています。このため、起立時の血圧維持機構が十分にはたらかず、脳循環が低下することによって立ちくらみが起こるのです。このような現象は妊娠初期から現れます。

立ちくらみへの対策としては、急激な動き(急に起きる、急に立つなど)を避け、ゆっくりとした動作を心掛けることが予防になります。また、脱水、過度の空腹、疲労、人混み、風呂上がり時などは立ちくらみを起こしやすいので注意が必要です。もし立ちくらみを感じた場合には、深呼吸し低い姿勢をとるようにしてください。在宅中であれば横になって寝る、外出時であれば座ったり、しゃがんだりしてゆっくりと回復を待ちましょう。

また、妊娠末期に仰向けになると子宮が下大静脈を圧迫することにより、頻脈、悪心、顔面蒼白などの症状を起こすことがあります。妊娠中は血液量、心拍出量ともに増加するのですが、プロゲステロンの上昇により血管が拡張し血圧上昇が起きにくくなっています。そのため、子宮の下大静脈の圧迫により心臓への静脈血還流が低下し、迷走神経反射も加わって低血圧、徐脈を引き起こしやすくなるのです。妊娠末期にはできるだけ横を向いて寝ること、仰向けになる場合にはできるだけ上体を起こすなどの対応が必要です。

妊娠中はつわり、貧血、低血圧とさまざまなトラブルが起こりやすく、自分が貧血かどうかというのはわかりにくくなってしまいます。妊娠中は、無理をせずゆっくり休むこと、バランスの良い食事をとること、そして妊婦健診をきちんと受けること、が大事です。

【授乳期の母子の貧血】

最後に、お子さんがすくすく伸び伸びと育つ秘訣は、何といってもお母さんの気持ちが安定していることです。お母さんがいつもイライラしていれば、子どもは例えまだ小さくても気配を察して萎縮してしまいます。子育ては山あり谷ありの長いレースのようなもの。最初から一生懸命になってしまうと息切れしてしまいます。悩み事があるときは自分一人で背負いこまず、周りの助けも借りて上手に息抜きしながら、楽しい子育てライフにしていきましょう。

授乳中の女性では、妊娠していない女性、及び授乳していない女性と比べての貧血有病率が低いという研究結果があります10。妊娠中に比べると授乳中には貧血になりにくいといえるかもしれません。しかしながら、授乳期には母乳に積極的に鉄が送り込まれるため、母体が鉄欠乏性貧血になりやすくなっています。母体が貧血になると母乳の出が悪くなります。出産後も鉄、ビタミンB6、B12、葉酸、銅、亜鉛といった栄養素を積極的に摂取し、貧血の予防に役立ててください。

一方、乳児においては出生後一時的に生じる貧血(生理的貧血)があります11。これは胎内の環境から外界の環境へ適応するための自然な反応です。胎内にいるときは胎盤を経由して母体の赤血球から酸素を受け取りますので、非常に酸素濃度の低い環境です。このため、胎児は特有のヘモグロビンを持っており、骨髄中の赤血球数も多数であることがわかっています。これに対し、出生後は酸素濃度の高い環境で、肺呼吸により自身で酸素を取り込むことになります。このような環境の違いに対応するため出生後1~2か月間は赤血球の増殖が抑制されます。その後急速な体重増加に伴って血漿量が増加し赤血球数の低下した貧血の状態になります。生後2~3か月ころより赤血球の増殖が再開されると貧血は解消されますが、鉄の消費が始まります。

母乳中の鉄の濃度はミルクに比べると低いのですが、利用率が平均20%12と高いため、生後4~6か月間は貧血にならないといわれています。また、正期産で出生時体重が正常範囲の新生児は生後4~6か月までは体内の貯蔵鉄を利用しているといわれています。ただし、日本人において、母乳栄養児はミルクで保育されている乳児と同じように成長しますが、生後6か月の時点でヘモグロビン濃度が低く、貧血を生じやすい傾向があるとの報告があります13。母乳だけでは赤ちゃんの鉄の必要量を満たせない場合もあるといえそうです。これはおそらく妊娠中に胎児が十分な貯蔵鉄を蓄えることなく出生することによると考えられています14

急速な成長を続ける乳児においては、貧血の原因のほとんどが鉄不足によるものです。乳児の貧血は見た目ではわかりにくく、血液検査で発見されることがほとんどです。まずは妊娠中から授乳期までお母さんが積極的に鉄を摂取すること、そして離乳期には赤ちゃんに積極的に鉄を含む食事を用意してあげるようにして貧血の予防をしましょう。

14

栄養素の不足による貧血のうち、もっとも起こりやすい原因は鉄不足です。鉄不足は妊娠前から妊娠中、授乳期まで起こりやすくなります。鉄は一度に吸収される量が少なく、吸収率はヘム鉄で15~25%、非ヘム鉄で2~5%と言われています。しかしながら、非ヘム鉄はビタミンCや肉魚類を同時に摂取することにより鉄の吸収率は2-3倍にまで増加すると言われています。鉄を摂取するときには食品の組み合わせを工夫するのがコツです。また、鉄鍋を使用すると料理中の鉄が増えることがわかっています15。特に酸味や塩分を加えると鉄の量がより増えるようです。お湯を沸かすだけでも水中の鉄が増えるとのことなので、飲み水、赤ちゃんのミルクなどに使うとよいでしょう。なお、鉄鍋の錆は酸化した鉄です。酸化鉄は医薬品添加物、食品添加物としても使われており、微量であれば安全です。

鉄を多く含む食品:かつお・牛赤身肉・ほうれん草・大豆製品・ひじきなど

葉酸16、ビタミンB6、B1217

妊娠中には胎児にも相当量が必要なため、不足しがちな栄養素です。不足すると貧血の原因になります。また、葉酸については先天性異常のリスクを下げるためにも妊娠前からの補給が勧められています。いずれも水溶性のビタミンであるため、水中では食材から流れ出ることがあります。また、熱や光に弱い栄養素ですので料理に工夫をするのがコツです。スープや鍋にしてゆで汁まで摂取する、加熱時間を短くするなど工夫するとよいでしょう。

葉酸を多く含む食品:ほうれん草・ブロッコリー・アスパラガス・いちご・アボカドなど
ビタミンB6を多く含む食品: まぐろ・鶏ささみなど
ビタミンB12を多く含む食品:あさり、さんま、煮干しなど

銅、亜鉛18-20

貧血の原因としては稀ですが、鉄剤投与で効果のない貧血に対して銅や亜鉛の投与で改善することがあります。通常の食事をしている場合には不足することのない栄養素です。ただし鉄を過剰に摂取すると銅や亜鉛の吸収が阻害され不足する場合があります。調理による損失はほとんどありませんが、吸収も微量です。まとめて摂取するのではなく、日々コツコツと摂取するとよいでしょう。

銅:肉類、魚、甲殻類、アボカド、木の実、豆類
亜鉛:肉・魚介・種実・穀類など多くの食品

いろいろな栄養素が出てきてややこしく感じるかもしれませんが、難しく考えることはありません。まずは、鉄を中心に考えて食品を摂るようにしましょう。そして、葉酸、ビタミンB12をプラスしてメニューを考え、いろいろな食品を摂るようにしてください。そうすることによって、ビタミンB6、銅、亜鉛といった栄養素もしっかり摂れます。

なお、これらの栄養素を食品から摂取することは貧血の予防に役立つことが予想されますが、まだ科学的なエビデンスは十分ではないことをご承知おきください。

【まとめ】

【参考文献】

  1. 血液についての基礎知識. メルクマニュアル医学百科 家庭版
  2. 貧血の基礎知識. メルクマニュアル医学百科 家庭版
  3. 鉄欠乏性貧血における氷食症, 内田立身ら. 臨床血液. 55:436-439, 2014
  4. 妊娠貧血. 中西美紗緒ら. 周産期医学. 42:367-369, 2012.
  5. 妊娠と貧血 一診断と対処のしかた一. 大西康. Meaical Practice. 28: 2137-2141, 2011.
  6. Doppler assessment of the fetal cerebral hemodynamic response to moderate or severe maternal anemia. Carles G, et al. Am J Obstet Gynecol. 188:794-799, 2003.
  7. Anemia in pregnancy. Sifakis S, et al. Ann N Y Acad Sci. 900:125-136, 2000.
  8. 貧血・たちくらみ. 坂下知久. ペリネイタルケア. 32:16-19, 2013.
  9. 妊娠による循環器系の変化. 秋元義弘. ペリネイタルケア. 32:32-36, 2013.
  10. Nutritional status of pregnant and lactating women in Japan: A comparison with non-pregnant/non-lactating controls in the National Nutrition Survey. Takimoto H, et al. J Obstet Gynaecol Res 29:96─103, 2003.
  11. 小児の貧血. 長尾大. 日本内科学会誌. 88:1054-1060, 1999
  12. Iron Sufficiency in Breast-Fed Infants and the Availability of Iron from Human Milk. McMillan JA, et al. Pediatrics 58:686-691, 1976.
  13. Type of milk feeding affects hematological parameters and serum lipid profile in Japanese infants. Isomura H, et al. Ped Int 53:807-813, 2011.
  14. vol. 7 今日からできる!妊娠~授乳期の貧血を防ぐ、鉄摂取のコツ」月とみのり. 産育食ラボ
  15. 調理中に鉄鍋から溶出する鉄量の変化. 今野暁子ら. 日本調理科学会誌. 36:39-44, 2003.
  16. vol. 1 葉酸のなぜ?どうとればいい?」月とみのり. 産育食ラボ.
  17. vol. 8 妊娠・授乳中に不足しがちなビタミン、あなたは大丈夫?」月とみのり. 産育食ラボ.
  18. 日本人の食事摂取基準(2015年版)報告書. 厚生労働省. 第一出版. 2014.
  19. 「健康食品」の安全性・有効性情報. 銅解説.
  20. 「健康食品」の安全性・有効性情報. 亜鉛解説.