株式会社みらいたべる 産育食ラボ

みんなのお悩み・便秘を撃退!妊娠中も腸内美人でいるために

【はじめに】

排泄は食事と同じくらい大切な生活習慣です。おかあさんの腸内環境は生まれた赤ちゃんの健康にも影響することがわかってきています。排便の仕組みや便秘の原因を知って妊娠・授乳中の便秘をできるだけ予防しましょう。

【排便の仕組み1.2

普段何気なく行っている排便は、脳を経由した複雑な神経伝達によって調節されています。排便の仕組みは次の3つにわけられます。(1)胃から大腸への反射、(2)大腸の蠕動運動、(3)肛門周辺の反射。それぞれについて簡単に説明します。

(1) 胃から大腸への反射

口から摂取した食物が胃に入り、消化のために胃が動くと、脳に情報が伝わり大腸の蠕動運動が発生します。この時、胃が大きく伸展するほど大腸への反射が起こりやすいとされています。つまり、食べた量を多いほど大腸の蠕動運動を開始する反射が起こりやすいといえます。また、食事前の空腹時間が長いほど反射が強くなることがわかっています。

(2) 大腸の蠕動運動

食物は胃から小腸にかけて消化・吸収されます。その後、吸収されずに残ったものが大腸へと送られていきます。大腸内の内容物が増え、内圧が上昇するとともに腸内の粘膜が伸展すると大腸の蠕動運動がはじまります。腸内容物は一旦下から上へ移動し、その後左から右へ、そして上から下へ運ばれ、S字状のカーブ(S状結腸)にてとどまります。このような移動の途中で水分が吸収されることにより、固形状の便が形成されます。

(3) 肛門周辺の反射

十分な腸の便がたまると、肛門の上にある直腸に便が送り込まれます。直腸内圧が上昇し、直腸壁が伸展すると、その刺激が骨盤神経に伝わり、排便反射による直腸の収縮を引き起こします。同時に脳へも刺激が伝わり、便意を催すことになります。便意を感じ、いきむことによって腹腔内圧が高まると肛門周辺まで便が押し下げられます。最後に肛門周辺の筋肉が弛緩することにより排便が起こります。
大腸の動きは副交感神経によって促され、交感神経によって抑えられます。また、肛門から便を出す際には副交感神経による筋肉の弛緩が必要です。
尚、一般的な便の成分は8割が水分、残りは消化・吸収されなかった食べかす(主に繊維)、消化器官から剥げ落ちた上皮細胞、腸内の細菌類、吸収できずに余ったミネラル類、変性した胆汁、などが含まれています。

便秘とは3,4

摂取した食物は約4時間で大腸に送り込まれます。その後、時間をかけて大腸内を移動し、S状結腸に到着するには平均して12時間かかると言われています。また、大腸の蠕動運動は各部における小さなものと、広範囲において同時に起こる大蠕動に分けられます。大蠕動は一般に1日に1~3回起こり、食事が刺激となっています(胃から大腸への反射による)。したがって、大蠕動が起きたときにS状結腸のところに便がある程度溜まっていれば、便意を催すことになります。便意を催す頻度は個人差があり、正常の範囲が明確に定義されているわけではありません。

便秘とは、大腸内に便が停滞し通過が遅れている状態をいいます。実際には排便回数がいつもより減っていたり、乾燥した便が排泄されたときに気づくことができます。便意の催す頻度に個人差があるように、便秘の状態にも個人差があります。毎日欠かさず排便をする習慣がある人では、1日便意がなくても便秘といえます。また、たとえ毎日排便をしていても、乾燥した便であったり、残便感がある場合には便秘といえます。逆に2~3日に1回でも習慣的にすっきりと便通がある場合には便秘でない場合があります。

便秘になる原因はさまざまです。大きく2つに分けると、大腸自体の病変が原因の器質性便秘と、大腸には異常がないのに機能が低下する機能性便秘があります。機能性便秘はさらにさまざまな原因に分けられます。たとえば、心因的な要因、生活習慣をはじめ、薬剤、他疾患が原因となることもあります。通常の生活でよくみられる便秘は機能性便秘がほとんどで、心理的な要因や生活習慣が原因となるものが多いようです。

たとえば、ストレスなどの心理的要因は自律神経のバランスに影響します。排便は交感神経と副交感神経という自律神経の複雑な調節によって行われますので、ストレスの影響を強く受けます。また、排便に影響を与える生活習慣としては、食事の量、食事内容、生活時間などが挙げられます。食事の量や内容は便の量や成分に直接影響します。また、大腸の蠕動運動には概日リズムがあることがわかっているため、不規則な生活時間は排便に影響します。この他にも運動不足や加齢による腸機能の低下が原因になることもあります。

一方、授乳期においては授乳による水分不足、運動不足、食事内容の変化、便意があっても手が離せないというタイミング逃しなどが便秘の原因になる可能性があります。また、育児ストレス、仕事や家事のストレスなども便秘の原因になります。

妊娠・授乳期の便秘は憂鬱なものです。しかしながら、ホルモンや子宮の影響による便秘は妊娠による一時的なもので病気ではありません。いつもと違う排便感覚に戸惑うかもしれませんが、あまり思い悩むことはかえってストレスになります。便秘は食事や生活習慣などを見直すことである程度予防したり改善することができます。排便を促しやすい食事や生活習慣を知って、自分にできそうなことからはじめてみましょう。

便秘の対処法3

前述のように便秘の原因のほとんどは食事など生活習慣と関連したものが多くなっています。そこで、ここでは便秘を予防したり改善することが期待できるような生活習慣について紹介します。

(1)規則正しい生活時間

腸管の動きには概日リズムがあることをお話ししました。睡眠中には動きが抑えられていますが、朝目覚めるとともに腸管は動き始めます。このとき、きちんと朝食を摂ると胃から大腸への反射が起こり、より大きな蠕動運動を誘導することができ、自然な便意を催しやすくなります。また、食事前の空腹時間が長いほど反射が大きくなるため、夜食を控え、しっかり眠って腸を休め、朝食をしっかり摂ることがお勧めです。

(2)運動

腸管運動はからだを動かすことによって促進されます。同じ姿勢を続けることが多いと腸の動きも少なくなります。少しずつでも体を動かしてみましょう。

(3)食事

まずある程度の量をきちんと食べていないと便の量が減りますし、胃から大腸への反射も弱くなり、便秘になりやすくなります。ただし、つわりで食欲のない時は無理に食べる必要はありません。また、水分の摂取が減ると便が固くなり、便秘になりやすくなります。つわり中でも水分はできるだけ摂るようにしましょう。便通を良くする食品として、食物繊維、乳酸菌、オリゴ糖、脂質、香辛料などが知られています。これらの食品については後ほど詳しく紹介します。

(4)ストレス

排便は自律神経の複雑な調節によって実現しています。ストレスは自律神経に様々な影響を及ぼすことがわかっていますので、少しでも減らしたいところです。 尚、便秘を改善する薬は市販のものが多数ありますが、成分によっては子宮の収縮を誘発するものもあります。自己判断で使用せずに必ず主治医と相談してください。また、サプリメントやハーブティーで自然なお通じ等の助けになるという商品については、妊娠中の安全性が確認されていないものもありますので慎重に使用してください。

便秘と食物繊維7,8

便秘に食物繊維というのはよく聞く話ではないかと思います。食物繊維というのはきちんとした定義があるわけではありませんが、化学構造的には炭水化物の一種になります。炭水化物のうち、ヒトのからだで消化できるものを易消化性炭水化物といい、消化できないものを難消化性炭水化物といいます。一般的な食品についていえば、食物繊維とはこの難消化性炭水化物に相当します(以下の文では食物繊維で統一します)。食物繊維は腸で水分を保持するため便の量を増やしたり、適度にやわらかくするという役割をもっています。また、腸管への機械的刺激を与えるため便の腸内通過時間が短くなります。さらに、食物繊維は腸内細菌によって分解されると脂肪酸になり、腸内環境を整えたり腸内のエネルギーとして使われることがわかってきています。

食物繊維による便秘の改善効果についてはさまざまな臨床試験が行われていますが、便秘が改善したという報告9がある一方で便量は増加するが便秘は改善しなかったという報告10 もあります。便秘という症状は定量化して評価することができないため効果もきちんと証明しにくくなっています。便秘を改善するには食物繊維の摂取と併せて前述した生活習慣の見直しも必要なのかもしれません。

食品から食物繊維を摂取する場合には副食に野菜を増やす、主食を玄米やそばにするといった工夫が大切です。また、食物繊維には水溶性と不溶性のものがあります。不溶性食物繊維は豆類やきのこ類、海藻類に多く含まれ、便の量を増やすことが期待できます。一方、水溶性食物繊維はプルーンや納豆、にんにくに多く含まれ、便の水分を保持しやすくなります。つわりで食欲がない場合には不溶性食物繊維は食べにくく感じるかもしれません。加熱してミキサーにかけてスープにしたり、水溶性食物繊維を利用するなどの工夫がおすすめです。

乳酸菌と腸内環境11

乳酸菌は食物繊維と並んで便秘の改善効果が期待される食品です。そもそも乳酸菌とは代謝によって乳酸を生成する細菌類の総称で、多数の種類が含まれます。ヨーグルトや漬け物など、発酵食品の製造に利用されています。

一部の乳酸菌は腸内にも存在し、さまざまな役割を持つことがわかってきています。ヒトの腸内には数百種類以上の菌が存在しており、その数はヒトの細胞数よりも多いとされています。腸内の菌の種類はさまざまな環境の変化に応じて変わります。そして腸内細菌の種類の変化は宿主であるヒトの健康や病気に影響を及ぼすことがわかってきています。乳酸菌は腸内で乳酸や酪酸といった有機酸をつくり、病原菌などの増殖を防ぐ役割を持つと考えられています。

乳酸菌の便秘に対する効果については、有効であるという報告12がある一方、便中の乳酸菌の数は増えるが、便秘の症状は変わらないという報告もあります13。乳酸菌によって腸内の環境を整えつつ、生活習慣を見直して排便習慣を改善していくことが必要なのかもしれません。

ところで、腸には食べ物の消化吸収という役割以外にもホルモンを分泌したり、免疫機能を働かせるという役割があります。特に近年、腸内環境と免疫には強い関係があることがわかってきており、子どものアレルギー症状と腸内環境の関係が注目されています14。胎児の腸内は無菌状態で、出産時に母体の産道や体表から菌を受け取り、腸内細菌として定着させていくことがわかっています。赤ちゃんの腸内細菌は母体の腸内細菌の影響を強く受けます。つまり、赤ちゃんに健全な腸内細菌を定着させるためには、妊娠・授乳期の母体の腸内細菌を良好な状態にしておくことが大切なのです。

乳酸菌を多く含む食品としては、ヨーグルトが最もよく知られているかと思います。この他には、ぬか漬けや浅漬け、キムチ、ザワークラウト、ピクルスなどにも多く含まれます。また、腸内の乳酸菌が増殖するためにはオリゴ糖と呼ばれる食物繊維が小さく分解されたものが必要です。乳酸菌を含む食品と併せてオリゴ糖を摂取することがポイントです。

催便効果をもつ食品3

食品の中には腸を刺激することで便通を良くしたり、逆に過剰に腸を刺激して下痢を引き起こすものがあります。

・脂質

脂質は腸内で分解されて脂肪酸になると腸を刺激することがわかっています。脂質を多く含む食品を摂ると便通が良くなる可能性がありますが、習慣的に脂質を摂り過ぎると肥満の原因になりますので注意が必要です。

・香辛料、炭酸飲料

腸内には香辛料や炭酸の刺激で活性化される受容体があり、腸の動きを良くすることがわかっています。効果は人それぞれですが、香辛料や炭酸飲料によって便通が良くなる可能性があります。
これらの食品は摂り過ぎると下痢を引き起こすこともあります。特に妊娠前にこれらの食品で便が緩くなった経験がある場合には注意して摂取してください。

【まとめ】

【参考文献】

  1. うんちが出るしくみ. 内田広夫. チャイルドヘルス. 8:869-872, 2005
  2. 排便と健康. 浦尾正彦. 順天堂医事雑誌. 60:16-24, 2014.
  3. 生活習慣と排便異常. 細田誠弥. 順天堂医学. 50:330-337, 2004.
  4. 妊娠貧血. 中西美紗緒ら. 周産期医学. 42:367-369, 2012.
  5. 女性と便秘. 平塚秀雄. 日本大腸肛門病会誌. 43:1070-1076, 1990.
  6. 便秘・痔. 岡本陽子. ペリネイタルケア. 32:1149-1152, 2013.
  7. 消化器系の変化とマイナートラブル. 衣笠万里. ペリネイタルケア. 26:572-577, 2007.
  8. 日本人の食事摂取基準(2015年版)報告書. 厚生労働省. 第一出版. 2014.
  9. 臨床栄養にいかす生化学講座 第34回 食物繊維. 柴原真弓ら. Nutrition Care. 5:409-411, 2012.
  10. Fecal output, gastrointestinal transit time, frequency of evacuation and apparent excretion rate of dietary fiber in young men given diets containing different levels of dietary fiber. Saito T, et al. J Nutr Sci Vitaminol. 37 : 493─508, 1991.
  11. 「健康食品」の安全性・有効性情報. 乳酸菌、ビフィズス菌など.
  12. Pediatric functional constipation treatment with Bifidobacterium-containing yogurt: a crossover, double-blind, controlled trial. Guerra PV, et al. World J Gastroenterol. 17:3916-3921, 2011.
  13. Effects of a probiotic fermented milk on functional constipation: a randomized, double-blind, placebo-controlled study. Mazlyn MM, et al. J Gastroenterol Hepatol. 28:1141-1147, 2013.
  14. 食品とプロバイオティクス. 古賀泰裕. HORMONE FRONTIER IN GYNECOOGY. 14:215-219, 2007.