株式会社みらいたべる 産育食ラボ

遺伝子とタンパク質について―より深い理解のために

まず“遺伝”(ジェネティック)現象について要約しよう。2001年に全ヒトゲノム配列の解読が成功したことは大きな話題になった1,2。ヒトゲノムは約30億対のDNAという物質からできた、いわゆる‘文字列’のようなものである。
親から子へと受け継がれる情報を担うのはこのDNA配列であるが、細胞の中で実際にさまざまな機能を行うのはタンパク質である。実は我々が‘遺伝子’と呼んでいるものはゲノム配列の中でも、タンパク質の情報を担っている(コードしている)配列部分のことである。細胞内では遺伝子の転写、翻訳という過程を経てDNAの情報がタンパク質になる。これを‘遺伝子の発現’という。

ヒトの体はおよそ60兆個の細胞が集まって出来ている。その細胞1つ1つに同じゲノムDNAが含まれている。もとをただせばこれら60兆個の細胞は、たった1つの受精卵だったのである。受精卵は細胞分裂を行いながら一個体のヒトを形成していく。細胞分裂の過程でDNAはコピーされ各細胞が同じ情報を受けとるが、細胞によって使われる遺伝子は決して同じではない。各々の細胞が特有の性質、機能をもつようになることを‘分化’という。分化の過程で発現する遺伝子の組み合わせが異なることで、あるものは筋肉細胞になり、あるものは神経細胞になるのである。いわばゲノムDNAという’設計図‘はどの細胞も同じだが、どの部分の情報を、いつ、どこで、どのように用いるのかは細胞ごとに異なる。このように遺伝子の発現がコントロールされることを’遺伝子制御‘という3。

ゲノムDNAは細胞内で主にヒストンというタンパク質と結合している。以前、ヒストンはDNAの保護的役割をするタンパク質という認識であったが、近年このヒストンの機能がクローズアップされている4。ヒストンとDNAは化学的性質により絡み合っているが、ヒストンの端の化学修飾基を変化させて性質を変えることによって、DNAからの距離を調節できるのだ。

遺伝子発現にはまず転写を制御する因子がDNAに結合する必要がある。ヒストンの化学的性質が変化することでDNAとヒストンの絡み合いが緩くなれば、転写因子がDNAに近づきやすくなり、遺伝子は発現されやすくなる。逆に縮まれば遺伝子の発現は行われにくくなる5。このような仕組みによって特定の遺伝子が必要に応じて選択的に発現するよう、制御されているのだ。

【参照文献】

  1. Initial sequencing and analysis of the human genome. International Human Genome Sequencing Consortium Nature. 2001 Feb 15;409(6822):860-921
  2.  An integrated encyclopedia of DNA elements in the human genome.
    ENCODE Project Consortium. Nature. 2012 Sep 6 ;489(7414):57-74

  3. 『操られる遺伝子』リチャード・C・フランシス 著 野中香方子 訳 ダイヤモンド社
  4. 『エピゲノムと生命』 太田邦史 講談社ブルーバックス
  5. Chromatin modifications and their function. Kouzarides T. Cell. 2007 Feb 23; 128(4):693-705