株式会社みらいたべる 産育食ラボ

わたしたち、いったい何を食べればいいの?

低体重児にしないためにお母さんが知っておきたい栄養のこと―最新の研究から―

出生時低体重と成人病のリスク

日本では2500g以下の低体重で生まれる赤ちゃんが年々増える傾向にあります。低体重で生まれると大人になってから高血圧や心臓疾患、糖尿病にかかるリスクが普通よりも高いことが明らかになってきています。 それでは大切なお腹の中の赤ちゃんを低体重にしないようにするには、妊娠中のおかあさんはどんなものを食べればいいのでしょう?

本稿では栄養と出生体重に関する最近の論文『A review of the impact of dietary intakes in human pregnancy on infant birthweight. (ヒト妊娠中の食餌摂取が、新生児の出生体重に与える影響についての総括)』をご紹介します。

妊婦さんの食物摂取と、その赤ちゃんの出生時の体重の関係を調べた研究はたくさんあります。大学や研究機関が発表した研究論文は国際的な電子データベースで共有されており、例えばPubMedというアメリカの国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)が運営するサイトには、二千万以上もの論文が掲載されています。しかしその数が膨大なこともあり、一つ一つの研究内容を把握するのは容易なことではありません。

今回ご紹介する論文は、関連する研究を探し出してその結果を一つにまとめたものです。方法としてはPubMedなどの国際的研究論文データベースから「ビタミンと低体重の関係」などをキーワードにして検索します。検索して見つかった論文の結果を「メタ解析」という方法で統合、解析しました。

調べられた栄養素は具体的には「オメガ3長鎖脂肪酸、亜鉛、葉酸、鉄、カルシウムおよびビタミンD」です。本論文から得られる総合的な知見は、母体と胎児の健康のためにどのような物をどれだけ摂取するべきか、という私たちにとても身近で大事な情報を与えてくれます。本稿ではこの論文で得られた結果に、日本の食事摂取基準などを交えてご紹介します。

本稿で用いている「低体重児」の定義は最後にまとめてありますので、詳しくはそちらをご覧ください。

足りない栄養素、摂るべき時期も重要

最近の調査によると日本だけでなく他の先進国でも、多くの妊婦さんの食事は一日に必要な食物エネルギー量を満たしていません。具体的には食物繊維や炭水化物の摂取量が足りない一方で、脂肪、特に飽和脂肪酸の摂取が多い傾向があるそうです。 どの栄養素も胎児の発育には重要です。一つでも不足すると胎児の発育に影響があり、発達具合は胎児の体重に反映されると考えられます。

胎児の体重は母体の胎盤の大きさや形態、また胎盤から供給される血液の量などと関係しています。お母さんが十分に食べないと胎盤の成長が進まず、赤ちゃんの出生時の体重が軽くなったり、IUGR(※語句参照)になるリスクがあります。

さらに胎盤から栄養が送られるタイミングも大切です。必要な時期に必要な栄養素が十分に送られることで、胎児は正常に発育できるのです。

それでは個々の栄養素について、本論文で述べられている知見を詳しく見ていきましょう。

【長鎖オメガ3多価不飽和脂肪酸】

最近では「不飽和脂肪酸」という名前を耳にする機会も増えました。脂質は5大栄養素の1つですが、ほとんどの構成成分は脂肪酸です。脂肪酸は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられます。

不飽和脂肪酸の中でも、炭素原子の二重結合が複数含まれる「多価不飽和脂肪酸」が重要視されています。例えばドコサヘキサエン酸(DHA)は胎児の成長、特に脳を含む中枢神経系の発達に欠かせません。もしDHAが成長の最も大事な時期に不足すると、脳のドーパミンまたはセロトニン神経の発育に支障が出ます。

DHAはn-3系の不飽和脂肪酸に分類されます。日本の厚生労働省の食事摂取基準では、n-3系不飽和脂肪酸の妊婦さんの1日の目安量は1.6gとされています。

DHAは魚類に多く含まれます。本論文では妊娠期の魚類摂取について、14の疫学的研究についてまとめました。それによると約半数の研究では、妊婦さんの魚類摂取によって出生時体重が改善したとされています。しかしその他の論文の中には、まったく影響がない、または悪い影響があるという結論に至ったものもありました。総合的に判断して、魚の摂取は一日に3.4g から47gにとどめ、回数としては月に8回から12回くらいが適当だといえるそうです。

DHAのサプリメントについても述べられています。サプリメントを摂った妊婦さんのグループから生まれた子どもの出生時体重は、摂らなかったグループの子どもよりもいくらか多くなりました。しかしLBW(※語句参照)が生まれる割合については、あまり違いがありませんでした。DHAは胎児の発育に必須の栄養素ですが、出生時体重に直接影響しないのかもしれません。

【亜鉛】

亜鉛は代謝やタンパク質分解酵素に含まれる生理機能に欠かせない成分です。日本で推奨されている妊婦さんの一日の摂取量は10mgです。

亜鉛の体内での吸収は妊娠前と妊娠期で変化はありませんが、授乳期には吸収量が増えます。亜鉛不足だと細胞数やタンパク質合成が減るなどします。またチューブリン重合が遅くなるために、細胞分裂がうまく行えなくなります。さらにアポトーシスと呼ばれる細胞死が増加したり、ホルモンや転写因子が反応する際に必要な亜鉛依存性領域に結合することができなくなったりします。これらの影響により胎児は正常に発育できません。

動物実験では亜鉛不足によって奇形児が生まれています。人では妊娠初期と末期に亜鉛が不足すると、発育不全やLBWになるリスクが増加するとされます。亜鉛不足になると分娩自体が長くなることで、母体にも悪影響を及ぼします。

今回調べられた46の論文のうち、23の研究で妊娠中に亜鉛を十分に摂ることで、子どもの出生時の体重が改善したそうです。しかし現在のところ、亜鉛不足による奇形や低体重につながるメカニズムは十分にわかっておらず、今後の研究が期待されるところです。

亜鉛のサプリメントについても述べられています。5mgから44mgの亜鉛のサプリメントの摂取ではLBWまたはSGA(※語句参照)の割合には影響がありませんでした。またサプリメントを摂った量ごとにグループに分け、それぞれの妊婦さん達から生まれた子どもの出生時体重を比べてみたところ、大きな違いはありませんでした。食事から十分に摂取していれば、それ以上の摂取はあまり影響がないともいえます。

【鉄分】

妊娠期の鉄分の摂取は胎盤の成長、胎児の成長を促すためにとても重要です。妊娠期を通して鉄分の需要量は増えますが、食事だけからではどうしても不足しがちです。鉄分不足は早産やLBWになるリスクがあります。

厚生労働省の基準で非妊娠時に一日に摂るべき鉄分は6.5㎎ですが、妊娠期にはさらに必要です。妊娠初期に2.5mg、中期、末期には9.5mgを基準に足した分が推奨されます。

鉄分摂取と出生時体重についてのイギリスの論文では、摂取量が増える毎に新生児の体重が少し増えたとのことです。また最近の25の研究の総括によれば、妊娠中の貧血によって低体重児が産まれやすくなります。特に妊娠初期、中期に貧血を起こすとLBWのリスクが通常よりも30%増えるそうです。

体内の鉄は機能鉄と貯蔵鉄に分けることができます。貯蔵鉄はフェリチンなどの鉄貯蔵タンパク質に結合しています。そのためフェリチンの濃度を測れば、貯蔵されている鉄の量を調べることができます。フェリチンの量は摂取量によって増減しますが、妊娠中にフェリチンが高過ぎても、低すぎても子どもは低体重出生児になりやすいという結果が出ています。

鉄分の吸収は、同時に摂取する栄養素によって大きく変わります。タンパク質やビタミンCなどによって鉄の吸収率は上がります。反対に苦み成分のタンニンや、生のホウレンソウに含まれるシュウ酸によって抑制されます。

鉄分のサプリメントによる効果をみてみましょう。サプリメントを摂った妊婦さんのグループでは、子どもの出生時体重が増える傾向がありました。またサプリメントを摂取したグループでは、LBWの割合が減ることがわかりました。

サプリメントを摂取する時期はあまり関係ないようですが、妊娠後期または出産時に妊婦のヘモグロビンの濃度が高いほど、出生時体重が多いことも今回の解析からわかりました。

このように妊婦さんの鉄分の摂取は、子どもの出生時体重と深く関わっており、サプリメントでも効果が見られるようです。

【葉酸】

胎児の成長に葉酸は欠かせません。葉酸が胎児の神経菅の形成に重要な働きをしていることはよく知られています。特に妊娠する三ヶ月前から妊娠初期にかけての葉酸の摂取が重要です。日本では妊婦さんは毎日480㎍を摂取することが推奨されています。 本論文では、最近話題になっている葉酸のサプリメントの効果について詳しく解析しています。葉酸のサプリメントが出生時の体重に及ぼす影響は今のところ知られていません。

妊娠中の体内の葉酸量は日々の食事やサプリメントからの摂取だけでなく、遺伝的な要素によっても変わります。赤血球に含まれる葉酸の量は測定した時から2カ月~4カ月前に摂取した葉酸量を反映し、また血清や細胞質の葉酸は最近の摂取量を反映します。

15の研究結果が解析されましたが、細胞の葉酸レベルが増えると出生時の体重が重くなるとしたのは2つだけでした。また葉酸の摂取によってLBWの割合が改善するとした研究は一つだけでした。

葉酸のサプリメントの研究は18あり、そのうちの5つで妊娠中期、後期の葉酸サプリメントの摂取によって体重が増えるという結果が得られています。同様の結果は、葉酸のサプリメントを摂ったグループと全く摂らなかったグループを比較した研究でも得られています。ただしLBWの割合は両グループで違いがありませんでした。

注意しなければいけないのは、解析された葉酸が妊娠前に摂取したものなのか、妊娠中の摂取によるものなのかを区別することが難しいという点です。妊娠中の葉酸の摂取によって低体重リスクを避けることができるかどうかについては、今のところ明確な結論は得られていないとするべきでしょう。

【カルシウム】

カルシウム吸収量と排出量は非妊娠時に比べて、妊娠期では2倍になります。胎児の成長に最も多くカルシウムを必要とする時期は妊娠末期で、特に骨の形成に重要な役割をしています。日本の食事摂取基準では毎日650mgとなっており、妊娠時でも非妊娠時でも同じ量が推奨されています。

妊婦のカルシウム摂取と出生時体重の関係を調べた研究は少ししかありません。カルシウムを1200mgずつ毎日摂取したグループと、800mgずつ摂取したグループを比較すると、その赤ちゃんの出生時体重の平均はそれぞれ3400g、3000gとなりました。カルシウム摂取の多いほうが出生時の体重が多くなったといえます。しかしいずれのグループの摂取量も日本の基準値を大きく超えており、また出生体重がどちらも3000gを超えていることからあまり参考になりません。

ある研究ではカルシウムのサプリメントを摂取しても、LBWとIUGRの割合に変化はありませんでした。サプリメントを多く摂取したほうが、わずかながら出生時体重が増えるという結果が得られていますが、有意に効果があるとはいえないようです。

【ビタミンD】

ビタミンD は体内で25-ハイドロキシビタミンDまたはカルシトリオールという形で循環しています。カルシトリオールは食物からのカルシウムの吸収を助けて、血中のカルシウム濃度を増やします。

ビタミンDが欠乏している妊婦から産まれた子どもでは、やはりビタミンD が欠乏します。 妊娠期のビタミンDの推奨量は日本では7㎍で、非妊娠時よりも多く摂ることが推奨されています。

最近の報告では25-ハイドロキシビタミンDが不十分だと、SGA のリスクが高くなるとあります。

現在のところビタミンDのサプリメントによって低体重児の割合が減るという証拠はありません。オーストラリアでは毎日の推奨摂取量を5㎍としていますが、定期的に太陽を浴びる人は、食事から得られるビタミンDだけで十分だと述べられています。太陽にあまり当たらない人はサプリメントで補充できますが、10㎍以上の過剰摂取は避けたほうがよいそうです。

食事についての解析

個々の栄養素がどれだけ出生時の体重に影響を与えるのかを評価することは、毎日の食事内容が変化することもあり難しいのものです。おそらく個々の栄養素よりも、食事そのものについて評価する方が現実的でしょう

この論文自体がオーストラリアの研究所のグループによるものなので、例に挙げられている食べ物は日本の食文化とは少し違いがあります。しかし基本的なことは万国共通だと思いますので、参考までに挙げてみましょう。

妊娠初期に果物、野菜、ヨーグルトやカロリーの少ない肉を摂取していると(これらはオーストラリアの伝統的な食事だそうです)、SGA のリスクは低くなります。またいわゆる西洋型の食事、要するに高脂肪、精製小麦、加工肉、ビールや甘い物などを摂っていた妊婦では、野菜や果物、鶏肉や穀物または赤肉や乳製品を食べるよりもSGAの割合が大きくなります。

日本の大阪で行われた調査についても、この論文の中で触れています。パンや菓子類、またソフトドリンク中心の食事を摂っていた妊婦では、米や魚、野菜中心の妊婦よりもSGAの割合が高くなっています。

さらに欧米で行われた調査についても触れています。いわゆる地中海式食事、野菜や豆類、果物、シリアル、オリーブオイルや魚介類を多く食べて、乳製品や肉は少なめに摂取する食事では低体重児や早産が少なくなる傾向にあります。

妊娠前の食事パターンが、妊娠してから生まれてくる子どもにどれだけ影響するかを調べた研究もあります。それによると低出生体重児につながる食事パターンは特にみつかっていません。しかし、タンパク質や果物を多く食べていた妊婦では低出生体重児のリスクが通常の半分になりました。また高脂肪、糖分やファストフードを多く摂っていた妊婦ではリスクが増えたと報告されています。

【妊婦さんの肥満が赤ちゃんの出生時体重に及ぼす影響】

最後に、妊婦さんの肥満が赤ちゃんの出生時の体重に与える影響についても本論文で触れています。妊婦のBMIが25以上ではLGAまたはmacrosomia(出生時体重が4000gより大きい)のリスクがあります。

肥満症の妊婦さんは脂肪を摂りすぎるケースが多く、赤ちゃんの食欲調節機能に悪影響を及ぼします。母体が肥満だと胎盤の発達が不十分で酸素や血液の供給が不足します。

妊娠前のBMIも無視できません。妊娠前に肥満傾向にあると、胎盤の重さとサイズが増える傾向にあります。

また肥満傾向の妊婦さんは必要な栄養の摂取が十分でないことが多く、そのため胎児にも栄養が不足しがちです。赤ちゃんのためだからといって食事を摂りすぎると、赤ちゃんの健康を害することになりかねません。またエネルギー量だけが足りていればよいというわけではないので、偏った食事ばかり摂っていると栄養不足になり、赤ちゃんの発達に多大な影響を及ぼします。

まとめ:バランスよく食べることの重要性

今回ご紹介した論文から、いくら栄養素だからといってもサプリメントだけで補うことはできないことがよくお分かりになったと思います。サプリメントの摂取で低体重が改善するという明確な証拠はありません。サプリメントはあくまで補助食です。日々の食事でどうしても足りないという日だけ摂るようにしましょう。

この論文で挙げられた栄養素だけでなく、他の栄養素も含めて、どんなに重要な栄養素も単独では決して働くことができません。摂取した栄養が体内で必要な物質に代謝されるためには様々な栄養素を必要とします。

『母親と赤ん坊をはぐくむのは、特定の栄養素ではなく、バランスのとれた多彩な食生活だ』とは、低体重児と成人病発症の関連を指摘したデビッド・バーカー博士の言葉です。妊娠期の栄養に関して、これ以上ふさわしい言葉はないでしょう。

【今回ご紹介した論文】

【その他の参照文献】

《語句説明》

今回ご紹介した論文で使われている低体重児の定義は以下の通りです。これ以外にもさまざまな定義があります。LBW (low birth weight):出生時の体重が2500g未満の新生児。

SGA (small for gestational age):出生時の体重と身長の両方がその週数で生まれる子どもの中で10パーセンタイル未満であること。例えば100人新生児がいたら、体重または身長が下から10人以内のこと。

IUGR (intrauterine growth restriction):子宮内胎児発育不全:子宮内での胎児の発育障害により、本来の在胎週数での成長より発育が遅延していること。本論文では出生時の体重と身長の両方がその週数で生まれる子どもの中で3パーセンタイル未満であること。

LGA (large birth weight):同じ在胎週数で生まれた新生児の90%が占める体重分布よりも体重が重い(90パーセンタイル超)新生児。

Macrosomia:出生時の体重が4000gより大きい新生児。

妊娠初期:16週未満
妊娠中期:16-28週
妊娠末期:28週以降