株式会社みらいたべる 産育食ラボ

体重コントロール

【はじめに】

妊娠中は厳しく体重コントロールをしなければならないと聞いたことはありますか?妊娠中の体重変化は赤ちゃんの成長を知る一つの目安ではありますが、どうしてコントロールが必要なのでしょうか。体重の変化がどのように起こるのか、体重の増減がどうして大切なのかについて説明します。また、体重をコントロールするための食事のコツについても詳しく紹介します。

ただし妊娠の時は例外です。成長を続ける胎児だけでなく、妊娠を維持するために母体自体の体重も増加します。通常、妊娠から出産までの体重増加は理論的には約11㎏とされています2。その内訳は、胎児が約3㎏、胎盤とへその緒などが約1.5㎏、母体の血液や組織液など増加による水分が1.5㎏、タンパク質が1.5㎏、脂肪が3㎏(合計10.5㎏)とされています。妊娠中の体重増加は胎児の成長とともに大きくなるので、妊娠中期ごろから増え始めると考えると、1週間につき0.3-0.5kgずつの増加が理想的と考えられます。

しかし、これらの数字はあくまでも理論上の参考値です。実際には妊娠中の体重増加には個人差があります。たとえば、妊娠前の体型によっても変わりますし、胎児によって成長の程度は違います。それに、妊娠中の栄養状態、食事内容によっても大きく変わります。

妊娠中は体重管理が厳しいと思われる方が多いかもしれませんが、実は日本においては妊婦の体重増加に関するデータが不足しています。体重を厳しく管理することが必ずしも良いことではないことがわかってきています。しかしながら、体重の増え過ぎ、増えなさすぎ、極端なダイエットなどが胎児によくない影響を及ぼすこともわかっています。

【体重変化と妊娠期のトラブル】

体重管理をそれほど厳しくすることはない、とはいうものの、妊娠中の体重の増え過ぎ、増えなさすぎ、はどちらもよくないことがわかっています。たとえば、妊娠中の体重が増え過ぎると妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病になるリスクが高くなります。また、巨大児、帝王切開、死産のリスクも高くなります3

どうして体重が増え過ぎるとこのようなリスクが増えるのでしょうか?妊娠中はもともと体重が増えやすい状態になっています。そんな時に食べ過ぎたりしてエネルギーが過剰になると脂肪としてエネルギーを貯蔵します。この貯蔵された脂肪の重量が体重となってあらわされるのです。

妊娠中に摂取したエネルギーのうち、糖質によるものは胎児に優先的に送り込まれます。したがって、母体は脂肪を代謝することによって自身のからだを維持しなければならず、脂肪を溜めやすい状態になっています4,5。しかしながら、過剰に蓄積された脂肪は通常とは異なるホルモンやサイトカインを分泌して、生活習慣病を引き起こすことが知られています。妊娠中には脂肪の蓄積が必要ですが、必要以上の脂肪は母体にとっても胎児にとっても良くない影響を及ぼすのです。

では、もともと肥満だった女性はダイエットをしなくてはならないのでしょうか?答えはノーです。最近の研究では、妊娠中の低栄養状態が胎児の発育だけでなく、出生後、成人後の健康状態に影響することがわかってきています。これはDOHaD説と呼ばれています6。妊娠中は体重という数字だけにこだわって食事量を減らすと、必要な栄養素が不足してしまいます。後述する体重コントロールのコツを踏まえて、無理なダイエットはしないようにしてください。

一方、やせすぎの女性においても切迫早産、早産、低出生体重児のリスクが高くなることがわかっています7,8。妊娠前からやせすぎの女性では妊娠中の体重増加は脂肪増加が他の女性よりも多いことがあります。妊娠して急に体重が増えたからといって食事制限をしたりすると、前述のように胎児の成人後の健康状態に影響し、生活習慣病などにかかりやすくなる可能性が高くなります。

また、体型維持のためと食事量を減らしていると、必要な栄養素が不足し、同じように胎児の成長に影響を及ぼします。妊娠中の体重増加は普段の体重増加とは違うということを理解して、無理な体重管理を行うことなく必要な栄養素を十分に摂ってください。

【産後の体重変化9

妊娠で増えた体重のうち、胎児と胎盤などの分については出産によって減ります。それ以外の母体で増えた体重については、分娩による疲れを補うことや母乳分泌の確立・維持に使われるエネルギーになります。その後、平均的には出産後5か月ごろから産後初めての排卵が始まる時期になります。したがって、出産後6か月ごろを目安に標準体重に近づけるようにすることが理想とされています。

出産後5か月ごろまでに妊娠前の体重に復帰しないのは、妊娠中体重増加の多い場合や、母乳育児をしていない場合に多いことが認められています。母乳分泌量が多いほど、妊娠前の体重へ戻りやすいため、体重管理の点からも母乳育児をすることがすすめられます。授乳期の食事摂取量は、母体の体型や母乳分泌量により異なります。自分の母乳分泌量と妊娠前への体重への復帰具合をチェックしながら、食事量を調節しましょう。ただし、極端なダイエットは母乳分泌が悪くなるので注意が必要です。なお、卒乳やミルクの使用により母乳育児を終えた場合、母乳を与えていた時期の食事内容をそのまま継続すると肥満を招きやすくなります。妊娠前の食事内容を参考に食生活を見直しましょう。

一方、授乳期間中は育児に時間を摂られ、食事をする時間が摂れないという場合も多くあります。出産後の体調が回復し、日常生活に復帰するためには約1か月かかります。きちんとした食事がとれない日が続くと、母乳分泌にも影響してきます。食事作りを援助してくれる人の有無が栄養素の摂取状況を左右することがわかっています。まずは、出産前から食事作りを援助してもらえる環境を整えましょう。その他にも、食品の計画的な購入と保存、調理素材の下処理の一括化とその後の味付けや保存の工夫、冷凍食品や加工食品の利用などにより、出産後の食事作りに備えましょう。時間が無いからといって食事を抜いたり、菓子類を食事の代わりにすることは母乳の分泌にも良くない影響を及ぼしますので、避けてください。

 

食欲と体重変化10,11

食欲というのは、基本的には不足したエネルギーを摂取するための欲求です。普段、何気なく食事をしていますが、食欲のメカニズムというのは、非常に複雑にできています。まず、生存に必要なエネルギーが不足したという状態を感知しなくてはなりません。次に、それを空腹と認識して、「食べる」という行動を引き起こします。そして、ある程度食事が進んだら、十分なエネルギーが摂取できたかどうかを判断します。最後に、食べることを「止める」という行動が必要になります。このように食欲をきちんと調節するのは、元をたどれば体重を一定範囲内に保つため、と考えられています。ところが、ヒトでは外部からの刺激が食欲をコントロールする場合があります。その刺激とは情報、おいしさ、ストレスです。

ヒトの体重は適切な食欲によって調節されています。しかしながら、上記のように食欲が乱されてしまうと、体重が減ったり増えたりしたまま元に戻らないことが起こります。自分の食欲がからだから自然に発せられているものなのか、それとも外部からの刺激で感じているものなのかを考えて適量を摂るようにしてみましょう。

体重を上手にコントロールする食べ方

食事による体重コントロールと聞くと、やせる食品あるいは太りやすい食品、と「何を」食べるか、食べないか、ということが気になると思います。でも最近の研究からは、体重をコントロールするための食事は「何を」だけでなく、「いつ」、「どうやって」食べるかという食べ方の影響が強いことがわかってきています12。そこで、食材についてお話しする前に、食べ方のコツを説明します。

・まずは夜食をやめる

同じ食事でも、食べる時間によってエネルギー発生量が異なります。夜食はもっともエネルギー消費が低く、残ったエネルギーは脂肪として蓄えられます。また、夜食は食後血糖血も高くなりやすく、生活習慣病になりやすいと考えられています。体重コントロールのためだけでなく、妊娠中の夜食はできるだけ控えましょう。

・朝食抜きをやめる

朝食を抜くと絶食時間が長くなるため、昼食時の血糖値が高くなりすぎたり、食べる量も増えてしまいます。朝食はエネルギー発生量が最も高く、脂肪として蓄えられにくいので、夜食をやめて、朝食をしっかり食べましょう。

・ゆっくりとよく噛んで食べる

食べる時間が早い人ほどBMIが高いという調査結果があります13。満腹感に気づき、食べ過ぎにならないようにするためにも、時間をかけてゆっくりと食べましょう。そのためにはよく噛む、一口の量を減らすなどの工夫が胎児です。

・空腹になってから食べる

満腹、空腹など摂食に関するホルモンは相互に作用しており、他のホルモンへの影響もあります。だらだらと食べたり、甘い飲み物を手元において飲み続けていると血糖値が下がらず、ホルモンのバランスが崩れやすくなります。外部からの刺激で食べたいだけなのか、実際にお腹が空いているのかチェックしてみましょう。

体重を上手にコントロールする食材14,16

これを食べたらやせられる、これを食べたら太る、という単一の食品はありません。特に妊娠、授乳期には赤ちゃんへの栄養が不足しないように上手に食材を選ばなければなりません。ここでは3つのポイントからおすすめ食材を考えてみたいと思います。

・胃内滞留時間

食べた物が胃の中で消化されて空になり、血糖値が下がって、からだのエネルギーが不足していると判断されると空腹を感じます。食べた物が胃の中に滞留する時間は食品の種類と量によって変わりますが、単独で摂取した場合には糖質が最も短いことがわかっています。つまり、糖質ばかりの食事ではお腹が空きやすいといえます。糖質の次に胃内滞留時間が長いのがタンパク質です。脂質は消化物が胃の運動を抑制するため滞留時間が長くなります。したがって、タンパク質を中心に脂質を少し加えると空腹になりにくいといえそうです。

・食事誘発性熱産生

ヒトは安静にしていても基礎代謝によってエネルギーが消費されます。これに対して、食後に安静にしていると基礎代謝よりもエネルギー消費が高まります。これを食事誘発性熱産生といいます。食事誘発性熱産生は食品の種類によって変わりますが、一般的にはタンパク質が一番高く、次いで糖質、脂質となります。食事誘発性熱産生は、基礎代謝に比べると低いエネルギー消費になりますが、同じカロリーを摂取するのであれば、糖質や脂質よりはタンパク質を多く含む食事にすると、消費エネルギーが高くなります。

・噛みごたえ

前述のように、よく噛んでゆっくり食べることが食べ過ぎの防止になります。したがって、野菜や海藻類など噛みごたえのある食材を取り入れることがおすすめです。同じ野菜でも少し大きめに切って使ったり、生で食べる、肉類についてもひき肉ばかりを使うのではなく、塊肉を少し大きめに使うなどの工夫をするといいでしょう。主食については白米を雑穀米にする、パンならハード系のバゲットなどにすると噛みごたえが増します。

以上3つのポイントをまとめると、タンパク質を中心に脂質を少々加え、野菜を一緒に摂るというのが腹持ちが良く、消費エネルギーが高く、ゆっくり食べられるため、食べ過ぎによる体重増加を抑えるコツといえそうです。

一般には脂質や糖質を抜くようなダイエットもありますが、妊娠期にはおすすめできません。糖質はお腹の赤ちゃんに優先的に送り込まれるエネルギーです。母体の糖質摂取が減ると、赤ちゃんの成長に影響します。また、脂質、特に魚類に多く含まれる不飽和脂肪酸は赤ちゃんの神経の発達に不可欠です。妊娠期の体重コントロールでは特定の食品を止めるのではなく、栄養のバランスを考えて実施しましょう。

体重コントロールのためには基本的には間食は控えた方がよいのですが、あまり空腹時間が長くなる場合には少量のおやつを摂りましょう。果物は胃内滞留時間が短く、夕食に影響しにくいのでお勧めです。夕食までかなりの時間がある時には大豆などのタンパク質を含むおやつが腹持ちが良くお勧めです。

【まとめ】

【参考文献】

  1. 食欲・体重調節の分子機構 乾明夫. 日本消化器病学会雑誌 100:298-305, 2003.
  2. 私の体重は○㎏です。あとどのくらい体重が増えればいいですか? 齋藤知見ら.周産期医学.42:64-65, 2012
  3. 妊娠前から太っていますが、妊娠中はダイエットした方がいいですか? 齋藤知見ら.周産期医学.42:66-67, 2012.
  4. 妊産婦の栄養アセスメント(脂質).渡辺員支ら.栄養評価と治療.24:40-42.
  5. 妊娠と脂質代謝.杉山隆.HORMONE IN GYNECOLOGY. 20:29-33, 2013.
  6. ぞんじですか?DOHaD説.月とみのり.(http://tsukitominori.com/dohad/
  7. 女性の体格の変化と食生活.志賀清悟.周産期医学.42:228-231, 2012.
  8. 母体体重増加が胎児発育に与える影響.竹田善治ら.周産期医学.42:377-379, 2012.
  9. 産後の体重管理と母乳育児に向けた食生活.堤ちはる.周産期医学.42:393-399, 2012.
  10. おいしさを感じる脳のはたらき.岡本雅子.臨床栄養.118:126-127, 2011.
  11. おいしさの脳反応と食べ過ぎの秘密.岡本雅子.臨床栄養.118:338-339, 2011
  12. 時間栄養学の概略.香川靖雄.時間栄養学.女子栄養大学出版部.2009.
  13. 「ゆっくりとよく噛んでたべること」は肥満予防につながる?安藤雄一ら.ヘルスサイエンス・ヘルスケア8:54-63, 2008.
  14. 基礎栄養学 改訂第2版.田地陽一 編.羊土社,2014.P39-42 消化器の構造と機能、
  15. P155-159 エネルギー消費量