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サイエンスアドバイザーの研究室から

産育食ラボ

妊娠~授乳期の食にまつわる「なぜ?」。
最新の医学的知見をふまえて、女性サイエンスアドバイザーがやさしくお答えします。

Vol.25 食べていないと気持ち悪くなる「食べつわり」の謎に迫る

「つわり」と聞くと吐気や食欲不振をイメージすることが多いのではないでしょうか。でも、つわりの症状というのは吐気や食欲不振以外にもいろいろあって、中には食べ続けていないと気持ち悪くなる「食べつわり」というものもあるのです。食べつわりとはどのような症状で、どのように対処したらいいのでしょうか?

答える人
「月とみのり」専属サイエンスアドバイザー
山下敦子博士(医学)
山下敦子博士(医学)
遺伝子工学などバイオテクノロジーの知見を背景に、医薬研究の道へ。
製薬会社研究員を経て大阪大学医学部研究員。現在は一女の母。はじめての子育てに奮闘中。

食べ続けないと気持ち悪い、その原因は低血糖状態かも?

妊娠中のつわりの症状には、「何かを食べていないと気持ち悪くなってしまう」というのもあるそうですね。

そうなんです、何かを食べていないと気持ち悪くなってしまうという状態で、「食べつわり」と呼ばれています。食べると気持ちの悪さが治まるので何かを口に入れたり、食べたりし続けてしまうんですね。

食べると吐いてしまうつわりも辛そうですが、「食べつわり」も心配ですね。どうして食べつわりになるんですか?

食べると気持ち悪さが治まる、という食べつわりには血糖が関係していると考えられています。妊娠していなくても空腹時の低血糖状態では気持ちが悪くなることがあります。ところが、妊娠中にはこの低血糖状態になりやすく、また症状も強くなることがありますので普段よりも気持ち悪くなりやすいのです。

どうして妊娠中には低血糖状態になりやすいんですか?

お腹の赤ちゃんにとって、主なエネルギー源は糖です。ですから、妊娠中は糖を胎内の赤ちゃんに優先的に送るようになっていて、おかあさん自身は血糖が低くなりやすいんですよ。

なるほど、妊娠中は貧血になりやすいと聞きますが、それと似ていますね。

もうひとつ、知っておいてほしいのが妊娠中は血糖値の変動がいつもと違うことです。どういうことかというと、妊娠中はお腹の赤ちゃんに糖を届けるために、おかあさんの体への糖の取り込みを抑えようと、糖の代謝をつかさどるホルモン「インスリン」の働きが抑制されます。その結果、食後の血糖値は普段より高くなることがわかっているんです。妊娠中は血糖値が上がったり下がったりする変動がいつもより大きくなりますが、妊娠による自然現象なので通常は心配いりません。ただし、血糖値が高い状態が続く場合には妊娠糖尿病の可能性もあるので注意が必要ですよ。

妊娠糖尿病とはどんな病気ですか?

通常の糖尿病とは違い、妊娠中の血糖値の変化に対応しきれなかった場合に起こる糖代謝異常で、厳密には糖尿病とは違うことがわかっています(※)。妊娠の終了とともに改善するとされていますが、将来的に糖尿病になりやすいこともわかっています。

赤ちゃんには影響しますか?

流産や形態異常、巨大児となるリスクが高くなります。また、赤ちゃんも将来糖尿病にかかりやすくなることがわかってきています。妊娠糖尿病と診断されると、血糖のコントロールのため食事制限が必要になりますので、医師の指示に従って治療を受けてくださいね。

妊婦検診で毎回尿中の糖をチェックするのは、そのためなんですね。ちなみに、食べつわりの症状のある人が、朝に気持ち悪くなりやすいというのも血糖値と関係があるんですか?

夕食から朝食までは間隔が長いので、低血糖になりやすくなっています。ですから、朝に気持ちが悪くなることが多いのではないかと考えられています。ただ、実際には必ずしも朝に低血糖になりやすいということはなく、他の時間帯でも気持ち悪くなることは多々あるようで、個人差がありそうです。

つわりの表れ方に個人差があるのはどうして?

つわりは食べられないというイメージでしたが、それだけではないんですね。

基本的にはつわりというのは、妊娠によって引き起こされる消化器系のトラブルと考えられています。普通のつわりも食べつわりも気持ちが悪いと感じるところは同じですが、食べたくない場合と、食べると楽になる場合があるということですね。

人によってこれほど症状が違うのはどうしてでしょうか?

つわりはホルモンの変化が原因と考えられています。ただ、ホルモンの影響の受けやすさに個人差があるのではないかと思います。例えば妊娠中に増加するhCGというホルモンは吐気が強くなりやすいと言われていますし、プロゲステロンというホルモンは食道の働きを抑えるので、悪心・嘔吐を起こしやすいと言われています。一方、エストロゲンというホルモンはインスリンの働きを抑え、血糖値の変化に関わりますので、食べつわりの原因の1つではないかと考えられています。


妊娠中には本当にいろいろなホルモンが関わっているんですね。気持ち悪いとひと口にいっても、原因は人それぞれなんですね。

その通りです。それに影響を与えるのはホルモンだけではないんですよ。妊娠中は血圧も下がりやすくなるので、それが原因でふらつきやめまいを感じることがありますが、これも気持ち悪い状態と言えます。以前「vol.2つわりのなぜ?どうすればいい?」で取り上げた、味覚や嗅覚の変化、栄養素の不足が原因で気持ち悪さが引き起こされることもありますね。

眠気、頭痛、だるさ、よだれまで?!つわりの症状はこんなにたくさん。

ところで、気持ち悪さ以外にもつわりの症状ってあるんですか?

消化器症状以外ですと、全身のだるさ(倦怠感)、頭痛、眠気、唾液増加などが妊娠初期の妊婦さんによく感じられる症状です。

これらの症状もホルモンと関係しているのですか?

全身のだるさや頭痛は血圧の低下や貧血との関係も考えられます。どちらもホルモンとの関係が深いことは、以前こちらの記事( Vol. 15意外な事実も?知っておきたい「貧血」まわりのあれこれ)でお話ししたとおりです。眠気についてはプロゲステロンと呼ばれるホルモンの影響と考えられています。プロゲステロンそのものに催眠効果があることと、体温を上昇させるので眠気を誘いやすくなっています。「寝つわり」と呼ばれて、家事や仕事が進まないほど眠くなることがありますが、そんな時は無理をせずに短い時間でも仮眠を取ってくださいね。

唾液が増えるのもつわりの症状だとは知りませんでした!

はい、あまり知られていないかもしれませんが、妊娠によって唾液の分泌量が増える現象で、「よだれつわり」と呼ばれるんですが、多くの妊婦さんが経験することがわかっています。これは、エストロゲンと呼ばれるホルモンの影響で、唾液腺にエストロゲンの受容体があるために起こると考えられています。唾液腺のエストロゲンの受容体の量や感度に個人差があるので、症状は人それぞれですが、ひどい場合には脱水症状になるほど唾液が出ることもあるので、水分をこまめに摂るなど注意が必要ですよ。

本当に妊娠中はいろいろな変化が起きるんですね。

そうなんです。ですから妊娠中はいろいろな変化が起きるのだということをきちんと知っておくことが大切ですよ。普段と違うことが起きても戸惑うことなく、自分の体の様子をチェックして、妊娠による変化なのか、他に原因があるのか医師にも相談してみてくださいね。

妊娠糖尿病とはどんな病気ですか?

通常の糖尿病とは違い、妊娠中の血糖値の変化に対応しきれなかった場合に起こる糖代謝異常で、厳密には糖尿病とは違うことがわかっています()。妊娠の終了とともに改善するとされていますが、将来的に糖尿病になりやすいこともわかっています。

赤ちゃんには影響しますか?

流産や形態異常、巨大児となるリスクが高くなります。また、赤ちゃんも将来糖尿病にかかりやすくなることがわかってきています。妊娠糖尿病と診断されると、血糖のコントロールが大切になるので食事制限が必要になりますので、医師の指示に従って治療を受けてくださいね。

食べつわりの上手な対処法は「ゆっくり、少量ずつ、様子を見ながら」

食べつわりに話を戻すと、気持ち悪い時はどのようなものを食べたらいいでしょう?

基本的には何を食べても大丈夫ですよ。食べられるものを食べてください。ただ食べると気持ち悪さが治まる、ということで食べ続けてしまうことが多くなると思います。そうすると気になるのが食べ過ぎです。理由はどうあれ、妊娠中の肥満というのは赤ちゃんにとってもお母さんにとってもトラブルが起こりやすくなると考えられています。食べつわりの場合にはまず、少量ずつ様子を見ながら食べることをおすすめします。お腹をいっぱいにするのではなく、糖分を補給するというイメージでキャンディーやジュースを利用するのもいいと思います。逆にスナックや菓子パンなどはカロリーが高いので食べ過ぎないよう気を付けましょう。

甘いものを補給するのがいいんですか?

低血糖状態を改善するには糖分補給がいいのですが、妊娠中は急激に血糖値を上げることもよくありません。最初にお話ししたように、妊娠中は普段と血糖のコントロールの状態が違います。妊娠中は糖尿病になりやすい状態でもありますので、あくまで気持ち悪さを改善するための最小限の補給と考えてくださいね。

食べつわりを緩和する栄養素や食品は、ほかにもありますか?

以前、こちらの記事で、吐気や嘔吐については葉酸やビタミンB6の不足が原因の1つであることをお話ししましたが、これらの栄養素は食べつわりに効果が期待できるかどうかはわかっていません。でも実は、食べつわりだけが単独で起こることは少なく、吐きつわりの症状も同時に起こり、食べては吐く、吐いては食べるという循環になることがあります。このような症状がある時には葉酸やビタミンB6を補充すると吐きつわりの症状を改善することが期待できます。それから、ショウガも吐気を改善することが期待できますので、試してみてくださいね。(参照:つわりに効く!?しょうがの吐き気を止める効果

他に気を付けることはありますか?

食べ過ぎ防止策としては、小分けにして保存しておくことと、ゆっくりと食べることがおすすめです。まとまった量を食べるのではなく、少しずつゆっくり食べてみて、気持ち悪さが治まってきたら食べるのをやめましょう。食事も3回にこだわることなく、量を減らして回数を増やすといいですよ。

(※)日本産婦人科学会:病気を知ろう「妊娠糖尿病とは」
http://www.jsog.or.jp/public/knowledge/ninshintonyobyo.html

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