最新医学と連携!産育食ラボVol.5母乳はどうやってつくられる?
最新医学と連携!産育食ラボ
赤ちゃんの理想的な栄養源である母乳はどうやってつくられるの?どうしたらたくさん出るの?
授乳ライフをスムーズに軌道に乗せるために、知っておきたいあれこれ、お教えします。
「月とみのり」専属サイエンスアドバイザー
山下敦子博士(医学)
遺伝子工学などバイオテクノロジーの知見を背景に、医薬研究の道へ。
製薬会社研究員を経て大阪大学医学部研究員。現在は一女の母。はじめての子育てに奮闘中。
おっぱいの大きさは関係ナシ!母乳育児のスタートは、母子の共同作業から。
- 妊娠してから母乳が出るまでの流れを教えてください。
- 母乳の準備は妊娠後すぐに始まります。まずは、おっぱいの中の乳腺という組織が発達し、脂肪も増えてきます。これらはすべてホルモンの影響によります。ただし妊娠中におっぱいが大きくなる度合いには個人差があるんですよ。
- おっぱいのサイズが大きくなる人ほど、母乳もたくさん出るのですか?
- いいえ。おっぱいが大きくなる度合いと母乳の出方は関係ありません。大きくならないからといって、母乳が少ししか出ないということはありませんので、心配いりませんよ。
- 実際に母乳がつくられるようになるのはいつごろからですか?
- 妊娠後期には母乳をつくる準備がほぼ整っていて、乳首をつまむとにじむ程度に母乳が出ることもあります。でも、この時期はまだ胎盤からのホルモンの影響で母乳分泌が抑えられているので、本格的な母乳の産生は出産後からになります
- 赤ちゃんが生まれると同時に母乳が出始めるということですね。
- そうです。でも、出産直後からふんだんに母乳が出始めるわけではないですよ。母乳分泌を抑えていたホルモンが体内から消えるには少し時間がかかります。個人差がありますが、出産後2日くらいかけて母乳が出始め、10日くらいで母乳産生が確立するといわれています。
- 意外と時間がかかるんですね。その間、赤ちゃんの栄養は大丈夫なんですか?
- 大丈夫です。赤ちゃんがおっぱいをくわえるとそれが刺激となって、母乳は少しずつ出てくるようになります。生まれたばかりの赤ちゃんの胃袋はとても小さいので、少しずつ母乳を飲むくらいがちょうどいいのです。
- 赤ちゃんがおっぱいを刺激するんですか?
- そうです。赤ちゃんのおっぱいの飲み方というのは独特で、大人には真似のできない舌の動きで母乳を絞るように飲みます。このとき、おっぱいから脳に刺激が伝わり、母乳をつくるプロラクチンというホルモンと、母乳を分泌するオキシトシンというホルモンが放出されます。これらのホルモンの影響で、おっぱいから母乳が出てくるのです。
- 母乳が出るようになるためには、赤ちゃんの協力も必要ということですね。
- その通りです。実は、赤ちゃんはお腹の中にいるときから指をくわえたり、羊水を飲み込んだりして母乳を飲む練習をしています。でも、生まれてすぐに上手に飲めるわけではありませんし、赤ちゃんにも個人差があって、上手に飲めるようになるには時間のかかる子もいますよ。
- 赤ちゃんが上手に飲めるようになるコツはありますか?
- まずは、おかあさんの乳首の形や柔らかさが大事です。気になる方は医師または助産師に相談してみてください。それから、赤ちゃんがしっかり乳首をくわえているかどうかが大事です。大きな口を開けて、おっぱいにぴったりと唇がつき、乳首が2㎝くらいくわえられているのがよい状態とされています。
授乳期に心がけたい、バランスのとれた食生活と血流のよいカラダづくり
- ところで、母乳が血液からつくられるというのは本当ですか?
- 本当です。といっても、血液がそのまま使われるわけではありませんよ。おっぱいにある乳腺細胞という細胞が血管のすぐ近くにあり、血液の中の必要な成分を取り込むのです。そこへさらに、乳腺細胞がつくる乳脂肪などの成分を加えて分泌されたものが母乳になります。
- ということは、おかあさんが食べたものが母乳の中にも入るということですね。
- その通りです。おかあさんが食べたものが消化・吸収されると、血液を介して母乳中にも取り込まれます。おかあさんの栄養状態が悪いと、母乳の出も悪くなりますよ。
- 母乳がよく出るようになる食べ物は何かありますか?
- これまでお話ししたように、母乳は血液からつくられ、ホルモンによって分泌が調節されています。したがって、血流を良くすることが大事になりますので、体を温めるような食べ物はおすすめできます。それから、母乳の成分のほとんどは水です。授乳期にはこまめな水分摂取も大事ですよ。
- 母乳の質をよくするためには、脂肪や糖質を控えた方がいいと聞きますが。
- 摂り過ぎには注意が必要ですが、控え過ぎもよくないですよ。脂肪も糖質も赤ちゃんの成長には欠かせない大切な栄養素ですので、適度に摂ってください。特に、魚類の脂肪に多く含まれるDHAなどの脂肪酸は赤ちゃんの神経系の発達に関わる大事な栄養素ですので、積極的に摂取してくださいね。母乳の質をよくするためには、おかあさんが健康であることが一番なんです。普段から揚げ物や甘いお菓子を沢山食べている、というおかあさんはいつもより控えた方がいいかもしれません。でも、食べてはいけないというわけではありませんよ。おかあさん自身の体調と、おっぱいの様子をよく見ながら、食べ過ぎにならないよう楽しんでください。
- 他にも母乳に大事な栄養素はありますか?
- どの栄養素も大事ですが、不足しがちな栄養素というのはあります。最近の日本人女性ではカルシウムや、ビタミンDが不足しがちであることがわかっています。また、鉄はおかあさんのからだから母乳へと優先的に取り込まれますので、おかあさんが貧血になることもあります。カルシウム、ビタミンD、鉄はいつもより意識して摂るようにしてほしい栄養素です。
- 不足しがちな栄養素をサプリメントから摂取してもいいのですか?
- サプリメントの成分も母乳中に移行しますので、過剰摂取に注意しなくてはなりません。できるだけ、食品から必要な栄養素を摂れるよう、バランスの良い食事を心がけてください。
- カフェインやアルコールも母乳中に移行しますか?
- はい。カフェインやアルコールは母乳を介して赤ちゃんの体内にも摂りこまれます。赤ちゃんの体内ではカフェインやアルコールが大人よりも長時間残ります。母乳中に含まれるカフェインやアルコールの赤ちゃんへの影響については、まだはっきりわかっていないこともありますが、できるだけ摂取には注意してください。
ひんぱんに赤ちゃんにおっぱいを吸わせて、たっぷりスキンシップするのが一番
- 母乳の出をよくするコツがあったら教えてください。
- 一番良いのは赤ちゃんにたくさんおっぱいをくわえてもらうことです。赤ちゃんがおっぱいを吸うことによる刺激が、母乳分泌を促すホルモンを分泌するようになっているからです。赤ちゃんの泣き声を聞いたり、匂いをかいだり、赤ちゃんと肌を触れ合うことによる刺激にも、同じ効果があるんですよ。
- スキンシップも母乳のために役立ってたんですね!
- そうなんです。ホルモン分泌の間隔を考えると、1.5~2時間おきに授乳をするのが理想的であることがわかっています。夜間は特にホルモン分泌が良くなりますので、夜間授乳も大事です。授乳間隔があいてしまうと、ホルモンの分泌が減ってしまい、母乳の量もどんどん減ってしまいますよ。
- けっこう大変そうですね
- そうですね。でも、授乳間隔が長すぎると乳腺炎などのおっぱいのトラブルのもとにもなりますので、こまめに授乳するのが結局一番楽なんですよ。それに、おかあさんのからだは妊娠中から授乳期には睡眠のパターンが変わり、夜間授乳をして睡眠時間が短くなっても睡眠の質は変わらない、という研究もあります。
- 細切れ睡眠でも乗り切れるようになってるんですね。
- あとは強いストレスも母乳分泌を促すホルモンを抑えてしまうので、おかあさんも赤ちゃんと一緒にお昼寝するくらいのゆっくりとした気持ちで母乳育児を楽しんでくださいね。