最新医学と連携!産育食ラボVol. 9 足りていますか?母子の健康維持に欠かせないカルシウム
最新医学と連携!産育食ラボ
体内で最も多いミネラルとして体重の1~2%を占めるカルシウム。骨や歯を丈夫に保つのに欠かせないのに、不足しても自覚症状が出にくいのが特徴です。妊娠適齢期の多くの女性が不足気味というカルシウムを、普段の食事から上手に摂るコツは?
「月とみのり」専属サイエンスアドバイザー
山下敦子博士(医学)
遺伝子工学などバイオテクノロジーの知見を背景に、医薬研究の道へ。
製薬会社研究員を経て大阪大学医学部研究員。現在は一女の母。はじめての子育てに奮闘中。
不足しても自覚症状が出にくいカルシウム。普段の食生活を見直して。
- カルシウムというと、骨に大事、というイメージがありますね。
- そうですね。体内のカルシウムの99%は骨と歯に使われていますので、イメージとしては合っていますよ。残りの1%のカルシウムは、血液や細胞の周りに存在して、細胞内に情報を伝える分子としてはたらきます。例えば、筋肉の収縮や、神経細胞の情報伝達にカルシウムが必要になります。
- そういえば、カルシウムが不足するとイライラしやすいと聞きますけど、関係ありますか?
- イライラしやすい状態というのは、いろいろな原因が考えられますが、カルシウム不足はあまり関係ないんですよ。血液中のカルシウム濃度というのはとても厳密に管理されていて、簡単に下がることはありません。カルシウムの摂取不足が続いて、血液中のカルシウム濃度が下がりそうになると、骨の中にあるカルシウムが血液に移動します。これを「骨吸収」といいます。つまり、骨の中にある程度カルシウムが蓄えられているので、軽度のカルシウム不足ではトラブルは起こらないようになっています。
- そうなんですね。では、カルシウム不足の症状というのは、どんなものがあるんですか?
- カルシウム不足は自覚症状が出にくいのですが、カルシウムの摂取不足が続くと、骨粗しょう症や骨軟化症などのトラブルを発症します。ここまで不足すると、食事からの補給では治らなくなります。普段の食事から、カルシウム摂取を意識しておきましょう。
カルシウム吸収率が高まる妊娠・授乳期も油断は禁物!
- 妊娠中には普段よりたくさんのカルシウムが必要になるんですか?
- もちろん、赤ちゃんの成長のためにはたくさんのカルシウムが必要です。でも、妊娠するとおかあさんのからだではカルシウムの吸収率が妊娠前の約2倍に上がります。このため、厚生労働省が作成した「日本人の食事摂取基準」でも、妊娠時のカルシウム摂取については、付加量を設定していません。つまり、妊娠前と同じようにカルシウムを摂取していれば、赤ちゃんの成長に必要なカルシウムは十分足りると考えられています。
- 吸収率が妊娠前の2倍になるとは驚きです。よくできているんですね。では、妊娠したからといって、たくさんカルシウムを摂る必要はないんですね。
- ただし、一つ注意があります。妊娠中はカルシウムをいつもより余分に摂る必要はない、と言いましたが、これは、普段からカルシウムを十分に摂っている人のお話です。妊娠前からカルシウムが不足気味の人は、むしろ多めに摂らなくてはなりませんよ。平成25年に実施された「国民健康・栄養調査」の結果をみると、20~40代の女性では、カルシウムは不足気味であることがわかっています。
- やっぱり、普段より意識してカルシウムを摂った方がいいんですね。授乳期にも同じように摂った方がいいのでしょうか?
- 授乳期は妊娠期ほどカルシウムの吸収率が高くありませんが、体外に排泄されるカルシウムが抑えられるので、やはり妊娠前よりはカルシウムを効率よく使えるようになっています。さらに、先ほどお話しした「骨吸収」が進んで、おかあさんの骨に貯蔵されているカルシウムが母乳に使われていきます。以上のことから、授乳期にもカルシウムの付加量は設定されていません。ですが、先ほどもお話ししたように、普段からカルシウムが不足気味である場合には、いつもより多めに摂った方がよいでしょう。
- 母乳をあげると、おかあさんの骨が減ってしまうということですか?
- 一時的ではありますが、授乳によっておかあさんの骨量は減ります。でも、授乳が終了すれば、すぐに回復する自然な現象です。それに、この時期に骨量が減ったことが原因で、骨粗しょう症などになりやすい、ということはありませんので心配いりませんよ。
妊娠適齢期の女性の平均的なカルシウム摂取量は、推奨量のわずか65%未満?
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- 普段からカルシウムが足りているかどうかわからない場合には、どれくらいの量を摂ったらいいんですか?
- 「日本人の食事摂取基準」では一日に650mgのカルシウムを摂取することを推奨しています。これに対して、「国民健康・栄養調査」の結果では20~40代の女性が摂取しているカルシウムの平均量は約420mgとなっています。その差は230mg。牛乳で換算すると200mLくらいを追加した方がよいといえます。
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- なるほど。やっぱり、カルシウム補給といえば牛乳ですか?
- 牛乳にはカルシウムが豊富に含まれている上に、カルシウムの吸収率も高いのでおすすめの食品です。牛乳に含まれるカゼイン由来のペプチド、乳糖、カルシウムとリンの比率、カルシウム結合タンパク質など、牛乳にはカルシウムの吸収を促進する成分が含まれていることがわかっています。ただし、乳糖に耐性のない方が牛乳を飲むと腹痛、下痢などの症状を起こしますので、無理して飲まないようにしてください。
- 牛乳が飲めない場合にはどうやってカルシウムを摂ったらいいのでしょうか?
- 牛乳以外にもいろいろな食品にカルシウムはたくさん含まれていますよ。たとえば、しらす干しや桜えびなどの魚介類、ひじきやのりなどの海藻類、切り干し大根や小松菜といった野菜にもカルシウムはたくさん含まれています。牛乳以外の乳製品が食べられるようでしたら、チーズやヨーグルトもおすすめですよ。
- カルシウムにも上手に摂るコツというのはありますか?
- ありますよ。カルシウムの場合はビタミンDと一緒に摂るのがコツです。ビタミンDはカルシウムの吸収を助けるはたらきをしてくれます。逆にビタミンDが不足しているとせっかく摂ったカルシウムが十分に吸収されなくなることがあります。実際、ビタミンDも不足しがちな栄養素なので、カルシウムと併せて積極的に摂ってほしい栄養素です。ビタミンDは、さけ、さば、いわし、干ししいたけなどに多く含まれています。月とみのりの産育食ではカルシウムとビタミンDがたっぷり含まれたレシピをたくさん紹介していますので、参考にしてみてくださいね。
- 他に気を付けることはありますか?
- カルシウムの吸収を阻害する成分には気を付けましょう。食品添加物として使われるリンや脂質を大量に摂るとカルシウムの吸収を阻害します。それから、カルシウムは一度に大量に摂ると吸収率が下がり、他のミネラルの吸収率も下げてしまいます。まとめて摂るのではなく、こまめに摂るようにしてください。
- 一食でまとめてカルシウムを摂ろう、なんていうのはよくないんですね。
- 朝や昼は手早くパンや麺類で済ませるという人が多いかもしれませんが、そんな時も何かカルシウム補給源になる食品をプラスするよう心がけてほしいですね。