最新医学と連携!産育食ラボVol. 8 妊娠・授乳中に不足しがちなビタミン、あなたは大丈夫?

最新医学と連携!産育食ラボ

18世紀以降、私たちは「ビタミン」の存在を知ることで、それまで謎の病気とされてきた壊血病や脚気などを克服してきました。でもいま多くの女性が、ビタミン不足気味だというデータも…。上手に摂るコツってあるのでしょうか?

山下敦子博士(医学)

「月とみのり」専属サイエンスアドバイザー
山下敦子博士(医学)

遺伝子工学などバイオテクノロジーの知見を背景に、医薬研究の道へ。
製薬会社研究員を経て大阪大学医学部研究員。現在は一女の母。はじめての子育てに奮闘中。

ビタミン13種のうち、日本人女性に不足しがちなビタミンが8種も?

  • ビタミンというと、何となく大切、というイメージはあるんですが、そもそも、ビタミンって何ですか?
  • ビタミンをわかりやすく言うと、からだの中で起こる化学反応に必要不可欠な分子で、しかも、体内で合成できないもの、という感じです。炭水化物やタンパク質などの栄養素からエネルギーなどを取り出すためには、からだの中で様々な化学反応が必要です。これらの反応はビタミンがなければ進まないものばかりです。したがって、ビタミンが不足すると何かしらの病気になってしまうことがわかっています。
  • 必要だけれども、からだの中では作れない。だから、食事から摂取しなくてはならないんですね。
  • その通りです。一部のビタミンは腸内細菌でも合成されますが、それだけでは量が足りないので食事から摂取しなくてはなりません。
  • それにしても、ビタミンの名前はややこしいですよね。どれくらいの種類があるのですか?
  • 現在ヒトに必要なビタミンは13種類とされています。脂溶性のビタミンである、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、それから、水溶性のビタミンである、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、パントテン酸、ビオチン、ビタミンC、です。名称に規則性がないのでややこしく感じられるかもしれませんね。
  • あまり聞き慣れないビタミン名もありますね。普段意識していないのですが、ちゃんと摂取できているんでしょうか?
  • 必要なビタミンの量、というのは厚生労働省が作成した「日本人の食事摂取基準」に設定されています。これは、さまざまな科学的根拠をもとに、健康維持に必要な栄養の目安と定めた基準になります。一方、実際に摂取しているビタミンの平均的な量は、平成25年度に実施された国民健康・栄養調査の結果からわかります。基準と比べると、20歳から49歳までの女性において、不足しているといえるビタミンは、A、D、E、B1、B2、B6、葉酸、Cの8種類です。
  • 13種類中8種類もビタミンが不足しているんですか?聞き覚えのあるビタミンの方が不足しているようですね。
  • すべての人が8種類のビタミン不足になっているわけではないですよ。でも、この8種類のビタミンは、意識しないと不足しがちになってしまう、と考えた方がいいかもしれません。

鶏や豚のレバーにはご用心!妊娠期・授乳期のビタミンとのつきあい方とは?

    • ビタミン摂取基準は、妊娠期や授乳期には変わるのでしょうか?
    • 変わるものと変わらないものがあります。妊娠期・授乳期に、必要量が増えるビタミンは、ビタミンA、D、E、B1、B2、ナイアシン、B6、B12、葉酸、パントテン酸、C、つまりビタミン13種のうち、ビタミンKとビオチンを除いた11種ですね。妊娠期に比べると、やはり授乳期の方が、母乳に分泌される分を補うため、これら11種のビタミンも必要量がアップすると考えてください。
    • ところで、ビタミンAも妊娠中には多く摂らなくてはいけないんですか?妊娠中には過剰摂取しないように、と聞いたことがありますが。
    • 確かに混乱しやすいですね。ビタミンAは、妊娠初期におかあさんが長期間大量に摂取し続けると、赤ちゃんの先天異常を引き起こす可能性が高くなることがわかっています。でも、その一方でおかあさんのビタミンAが不足した場合にも、赤ちゃんの先天異常を引き起こす可能性が高くなることが知られています。したがって、多すぎず少なすぎず、適切な量を摂ることが大事です。
    • むずかしそうですね。でも適量ってどう判断したらいいんでしょう?
    • そんなにむずかしく考えることはありませんよ。まず、過剰摂取を避けるために、鶏や豚のレバーの摂取を控えましょう。それから、不足を補うためには、緑黄色野菜を積極的に摂ってください。これらを意識することで、適量の摂取ができますよ。
    • 鶏レバーと豚レバーはどれくらい控えたらいいのですか?
    • 鶏や豚のレバーはビタミンAを非常に豊富に含みますが、一回の食事でもビタミンAの過剰摂取になってしまう可能性があり、妊娠初期にはできるだけ控えた方がよいと思われます。 ビタミンA摂取量の上限目安は、1日当たり2700μgRAEとされていますが、鶏レバーの焼き鳥串1本(30g)で4200μgRAE、ニラレバ炒め1人分(豚レバー60g程度)で7800μgRAEですから、かなり多いことがわかるでしょう。ビタミンAの上限量を超えてしまったからといって、必ず赤ちゃんが先天異常になる、というわけではありません。ですが、上限量を超え続けていると、先天異常を引き起こす可能性は高くなっていきます。鶏や豚のレバーを継続的に大量に食べ続けるのは避けてくださいね。
      一方で、緑黄色野菜などに含まれるβカロテンなどは、体内で必要に応じてビタミンAに変換されます。こちらは過剰摂取の心配はありませんから、ビタミンA不足が気になる妊娠中には、緑黄色野菜は心強い味方なんですよ。

    • 他に妊娠中に注意が必要なビタミンはありますか?
    • 胎児の先天異常を予防する葉酸、つわりの症状を予防するビタミンB6については、vol.1やvol.2でお話ししたとおりです。これらに加えて、ビタミンDとビタミンB12の不足には気を付けてください。ビタミンDはカルシウムの吸収に必要なビタミンです。一方、ビタミンB12は貧血予防に必要なビタミンです。ビタミンDは鮭、さば、しらす干し、干ししいたけなどに、ビタミンB12はあさり、さんま、さばなどに多く含まれています。どちらも普段から不足しがちな栄養素なので、積極的に摂取してください。

    • 授乳期に特に注意が必要なビタミンはありますか?
    • 母乳にはビタミンDとビタミンKが少なく、おかあさんが不足すると赤ちゃんも不足しやすくなってしまいます。ビタミンD不足はくる病など、ビタミンK不足は出血性疾患などを引き起こす可能性が高くなります。ビタミンDは日照時間の短い冬季には特に注意が必要です。紫外線を浴びる機会が少ない場合には、積極的に食品から摂取しましょう。ビタミンKは出生時や乳児健診で赤ちゃんに予防的に投与されますが、お母さんも食品から積極的に摂取して、母乳からも補充するようにしてあげてください。ビタミンKは納豆、小松菜、ほうれん草などに多く含まれます。

必要なビタミンの種類が多くて、ちゃんと摂れるかどうか心配になってきました。

  • 必要なビタミンの種類が多くて、ちゃんと摂れるかどうか心配になってきました。
  • 大丈夫ですよ。妊娠期・授乳期には、いつもより少し食事の量が増えると思います。このとき、主食だけを増やすのではなく、副菜を増やすことによってビタミンをいつもよりたくさん摂ることができます。不足しがちなビタミンを意識して、野菜や魚を中心とした献立を増やすようにするといいですよ。
  • 副菜でいろんな食品をバランスよく、ってことなんですね。調理の時に気をつけることはありますか?
  • ビタミンは熱に弱いものが多いので、調理の際に加熱時間が長くなるとビタミンが減ってしまうことがあります。ですので、まず、ゆで過ぎたりしないことがポイントです。あらかじめ材料を切っておく、調味料を用意しておくなど、適切な加熱時間で手際よく料理するよう心がけるといいですね。また、ゆで汁や煮汁にビタミンが流れ出てしまうことがありますので、スープや鍋物などもおススメです。
  • 調理方法でビタミンの量が変わってしまうんですね。
  • そうなんです。それから、ビタミンは光や酸素に弱いものが多いので、保存するときには冷暗所で空気に触れにくいように工夫するといいと思います。
  • 食品は新鮮な方がビタミンも多く含まれるんですか?
  • 乾物や発酵食品は別ですが、一般的には鮮度が高いほどビタミンも多くなります。また、ビタミンは冷凍保存ではあまり変化しないものが多いので、旬の時期の野菜などを冷凍保存しておくことはおすすめですよ。
  • 他に気を付けることはありますか?
  • ビタミンは一度にたくさん摂っても、すべてからだに取り込めるわけではありません。過剰分が排泄されるだけならいいですが、体内に蓄積されて悪影響を及ぼす場合もあります。日々、少しずつ摂っていくことが大事ですよ。そのためにも、何か特定の食品に偏ることなく、バランスの良い食事を心がけてくださいね。

関連記事一覧