最新医学と連携!産育食ラボVol. 7 今日からできる!妊娠~授乳期の貧血を防ぐ、鉄摂取のコツ

最新医学と連携!産育食ラボ

赤ちゃんとおかあさんの健やかな毎日のために「鉄」が必要不可欠なのはどうして?
からだが鉄を蓄えるメカニズムや、上手な鉄の摂り方のコツなど、これから妊娠を考える女性も必見です!

山下敦子博士(医学)

「月とみのり」専属サイエンスアドバイザー
山下敦子博士(医学)

遺伝子工学などバイオテクノロジーの知見を背景に、医薬研究の道へ。
製薬会社研究員を経て大阪大学医学部研究員。現在は一女の母。はじめての子育てに奮闘中。

妊娠~授乳期に鉄不足になりやすいわけ

  • 妊娠すると鉄不足になりやすい、というのは本当ですか?
  • はい、本当です。すでに妊娠初期から、赤ちゃんの成長や胎盤形成のために普段よりもたくさんの鉄が必要になります。妊娠中・後期になってくると、おかあさんの血液量が普段の1.5倍くらいになり、赤ちゃんの成長もますます進んできますので、さらに多くの鉄が必要。だから鉄の摂取を普段より意識していないと鉄不足になりやすいのです。
  • 鉄が不足すると、どのような症状が出るのですか?
  • 貧血による立ちくらみや、疲れやすさ、イライラなどが現れます。妊娠中に貧血になると、食事からの鉄摂取だけでは回復しにくく、鉄剤の投与が必要な場合もあります。妊婦健診の結果に応じて、必要な治療を受けてくださいね。
  • 妊娠中におかあさんが鉄不足になると、おなかの赤ちゃんへの影響もあるのですか?
  • 軽い貧血程度の鉄不足では、直接の影響はないと考えられています。でも、鉄不足が続いて重い貧血になると、赤ちゃんの成長などに影響する可能性が高くなると考えられています。鉄は血液中の酸素を運んだり、脳神経の発達を支えています。赤ちゃんの成長には欠かせない栄養素であることは間違いありませんので、できるだけ不足しないようにしたいですね。
  • 出産後も鉄の摂取を意識した方がいいですか?
  • はい、おかあさん自身の貧血防止のためにも、ぜひ意識してほしいです。赤ちゃんは母乳から鉄を摂取して成長を続けます。そして鉄は、お母さんの血液から母乳へ優先的に取り込まれますので、おかあさんが必要量の鉄を摂っていないと、貧血になりやすいのです。

成長期に必要な「鉄のストック」を、赤ちゃんのからだに蓄えるには?

  • 生まれてからの赤ちゃんの鉄は、母乳だけでは足りないと聞いたことがあるのですが、本当ですか?
  • いいえ。母乳中の鉄はミルクに比べると少なめですが、吸収率がとてもよいのです。したがって、通常、母乳のみで赤ちゃんの鉄が不足することはありません。ただし、赤ちゃんが生まれたときに蓄えている「貯蔵鉄」の量が少ない場合には、母乳のみでは鉄不足になる場合があります。
  • 「貯蔵鉄」というのは何ですか?
  • 赤ちゃんだけでなく大人も肝臓などの臓器に鉄を蓄えています。これを「貯蔵鉄」といって、鉄が不足しているときや、鉄が大量に必要なときに使われます。赤ちゃんはおなかの中にいる間におかあさんから鉄をもらって成長しながら、貯蔵鉄を蓄えます。そして、生まれてきた赤ちゃんは出生後4~6か月までは母乳からの鉄だけでなく、貯蔵鉄も使ってどんどん大きくなるのだといわれています。
  • 赤ちゃんの貯蔵鉄をしっかり蓄えるためには、妊娠中からおかあさんが十分な鉄を摂っておくことが大事なんですね。
  • その通りです。赤ちゃんの成長は早いので、生後4~6か月で貯蔵鉄も少なくなってきます。そこで、その後は母乳だけでは鉄が不足するので離乳食から鉄の補充が必要になってきます。
  • なるほど!そこで離乳食の出番なんですね。でも、赤ちゃんの鉄が足りているかどうか、っていうのはどうしたらわかるんですか?
  • 赤ちゃんの顔色がよく、活動的であれば鉄不足の心配はあまり必要ないですよ。でも、判断しにくくて気になる場合には医師に相談してくださいね。鉄は、からだの発達にも脳神経の発達にも大切な役割を果たします。一時的な不足にあわてることはありませんが、赤ちゃんの成長のスピードや鉄の吸収率には個人差がありますので、妊娠中から授乳期、離乳期まで長い目で鉄の補給を考えてあげてください。

意外なものにも鉄が!鉄の種類を知り、こまめに継続的に摂りましょう。

    • 鉄を多く含む食品はどんなものがありますか?
    • 鉄を多く含む食品と聞くと、レバーという答えが多そうですが、他にもいろいろな食品があります。赤身の肉、かつおなど動物性食品をはじめ、小松菜、大豆製品、ひじきなどの植物性食品にも鉄がたくさん含まれています。
    • 鉄を上手に摂るコツはありますか?
    • 鉄の種類と、食品の組み合わせ方がコツです。
    • 鉄にも種類があるんですか?
    • そうなんです。食品に含まれる鉄には、ヘム鉄と非ヘム鉄の2種類があります。肉や魚などの動物性食品に含まれているのがヘム鉄で、吸収率が高いのが特徴です。非ヘム鉄は植物性食品や卵、牛乳に含まれています。非ヘム鉄はヘム鉄に比べると吸収率が低いのですが、上手に食品を組み合わせることによって、吸収率が高くなります。

  • 非ヘム鉄の吸収率をアップする組み合わせって?
  • 非ヘム鉄はビタミンCや肉魚のタンパク質と一緒に食べると吸収率が高くなることがわかっています。例えば、ひじきと大豆のサラダにレモン汁(ビタミンC)を絞るとか、小松菜と鶏肉(タンパク質)を一緒に炒める、などはおすすめの組み合わせです。
  • 鉄は一度にたくさん摂ると、それだけ体にも蓄えられますか?
  • いいえ。鉄は少しずつしか吸収されないことがわかっています。一度にたくさん摂ってもほとんどがそのまま排泄されてしまいます。
  • そうなんですか。妊娠、授乳中に急に張り切って鉄を補おうとしてもダメなのかしら…。
  • ところが、妊娠中には鉄の吸収率が高くなることがわかっています。鉄の必要量が高くなると、吸収率も高くなるようです。授乳中にも同じように吸収率が高くなっているのではないかと考えられています。でも、一度の食事から吸収される鉄の量には限りがありますので、日々こまめに摂るようにしてくださいね。
  • 継続は力なり!貯蔵鉄をコツコツと蓄えていくのが一番なんですね。
  • その通りです。妊娠前の貯蔵鉄の量には個人差があって、鉄が不足すると貯蔵鉄から使われていきますので、知らない間に蓄えが少なくなっている女性もいます。そうすると、いざ妊娠、となって鉄の吸収率が高まっても、鉄の供給が追いつかず貧血になってしまうかもしれません。妊娠が分かったら、早いうちから積極的に鉄を豊富に含む食事を心がけましょう。
  • サプリメントから摂取しても大丈夫ですか。
  • サプリメントの場合は過剰摂取に気を付けながら使ってください。鉄を過剰摂取すると、赤ちゃんの成長に欠かせない栄養である亜鉛や銅の吸収が悪くなることが知られています。妊娠中にサプリメントを使う際には、他の栄養素の摂り過ぎにも注意が必要ですよ。事前に医師に相談してから摂取してください。
  • 他に注意することはありますか。
  • 鉄が豊富なレバーは、ビタミンAも多く含んでいます。妊娠初期のビタミンAの過剰摂取は、赤ちゃんの先天異常を増加させる危険があるとされていますので、食べ過ぎには注意が必要です。できるだけ、いろいろな食品から鉄を摂るようにしましょう。

関連記事一覧