最新医学と連携!産育食ラボVol.15意外な事実も?知っておきたい「貧血」まわりのあれこれ
最新医学と連携!産育食ラボ
鉄は貧血予防にもちろん大事ですが、それ以外にも意識したい栄養素があるのをごぞんじですか?貧血が起こるメカニズムを理解して、予防につながる食生活のコツから、ちょっと意外な雑学まで身につけちゃいましょう。
「月とみのり」専属サイエンスアドバイザー
山下敦子博士(医学)
遺伝子工学などバイオテクノロジーの知見を背景に、医薬研究の道へ。
製薬会社研究員を経て大阪大学医学部研究員。現在は一女の母。はじめての子育てに奮闘中。
「血液が薄くなる」のはなぜ?貧血が起こるメカニズムを理解しよう。
- 貧血は血が薄くなるとか、血が少なくなるというイメージですが合っていますか?
- 貧血というのは、血液全体が減るのではなく、血液の中でも赤血球にあるヘモグロビンというタンパク質が少なくなった状態です。血が薄くなるというイメージが合っていますね。ヘモグロビンは酸素を全身に運ぶ役割を持っているので、減少すると全身で酸素が不足した状態になります。
- からだの中の酸素が不足するとどのような症状が出るのですか?
- まず全身の機能が低下し、疲れやすいという症状が出ます。また、少ない酸素を補うために呼吸数を増やしたり、心拍数を上げて血液がたくさん流れるようにします。つまり、息切れや動悸といった症状も出やすくなります。脳への酸素不足はめまいとして感じられることもあります。でも、貧血が少しずつ進行すると体が酸素の薄い状態に徐々にならされるため、自覚症状が出ない場合もありますよ。
- 貧血の原因は鉄不足でしたよね。
- 鉄不足は貧血の主な原因の1つです。鉄は赤血球にあるヘモグロビンというタンパク質に必要で、酸素と結合する役割をもっています。したがって、鉄が不足するとヘモグロビンが作れなくなり、赤血球が小さくなったり数が減ったりします。ところで、鉄以外にも栄養素の不足で起こる貧血がありますよ。
- どんな栄養素ですか?
- 鉄と同じようにヘモグロビンの合成に関わる栄養素が不足すると貧血になることがあります。このような栄養素として、ビタミンB6、銅、亜鉛があります。貧血のほとんどは鉄不足が原因ですが、鉄を補充しても貧血が改善しない場合にビタミンB6、銅、亜鉛を補充すると改善することがあります。他にも葉酸、ビタミンB12の不足が貧血の原因になります。葉酸やビタミンB12は赤血球が増殖するために必要な栄養素です。たとえ鉄が十分にあっても、葉酸やビタミンB12が不足していると赤血球が増えず、ヘモグロビンの数も増えないため貧血になってしまうのです。
「一時的に赤血球の生成が追いつかなくなる、妊娠中の「生理的貧血」とは?
- 妊娠中には貧血になりやすいと聞いたことがありますが、本当ですか?
- はい、本当です。妊娠中は赤ちゃんを育てるために血液全体が増えます。まず妊娠初期から血液の液体成分である血漿が増加し始めます。それから少し遅れて赤血球の増加が始まります。このように血漿の増加と赤血球の増加にタイムラグがあるため、赤血球の濃度が薄い状態、つまり貧血になります。これは生理的貧血と言って自然な現象なので病気ではありませんよ。おかあさんの血液が薄まることによって胎盤の血流が増加し、赤ちゃんに酸素や栄養を届けやすくなるのではないかと考えられています。
- 一時的に貧血になることにも意味があるのだとしたら、すごいですね!妊娠中の貧血状態はいつまで続くのでしょう?
- 個人差はありますが、妊娠30週前後には赤血球の増加率が大きくなり貧血の状態が軽くなってきます。でも、おかあさんの栄養状態によっては貧血の症状が続いたり、重くなることがあります。先ほどお話しした鉄、葉酸、ビタミンB12といた栄養素は赤血球を増やすだけでなく、赤ちゃんの成長にもたくさん必要になります。ですから、妊娠中はこれらの栄養素を普段よりしっかり摂っていないと不足して貧血になりやすくなってしまいます。
- おかあさんが貧血になるとお腹の赤ちゃんにも影響しますか?
- 軽い貧血ではあまり赤ちゃんに影響はないと考えられていますが、重い貧血になると、赤ちゃんの成長などに影響する可能性が高くなるようです。通常は重い貧血になる前に妊婦健診で貧血がわかります。妊娠中だと鉄剤などの薬を処方されても慎重になってしまうかもしれませんが、医師の指示に従ってきちんと薬を服用し早めに貧血を改善してくださいね。
- 妊娠してから立ちくらみを感じることが増えるようですが、貧血でしょうか?
- 妊娠中の立ちくらみの原因には貧血と低血圧があります。妊娠中は低血圧にもなりやすくなっています。これはプロゲステロンの血管拡張作用と考えられています。立ったり座ったりなど急な動きに対して、血圧の調節がしにくい状態なので、立ちくらみを感じやすくなっています。妊娠がわかったら、あまり急な動きをしない方がいいでしょう。もし、立ちくらみを感じた場合には自宅なら横になる、外出先なら座る、しゃがむなどして気分が治るのをゆっくりと待ちましょう。貧血かどうかは妊婦健診を受けて調べてもらってください。
- 貧血になると氷が食べたくなると聞いたことがありますが、本当ですか?
- 氷ばかりをずっと食べ続ける氷食症と呼ばれる症状のことですね。特定の栄養のないものばかりを食べる「異食症」と呼ばれる症状の1つで、確かにそういう例はあるようですし、中枢神経との関与が示唆されてもいますが、まだ詳しい因果関係はわかっていません。日本では鉄欠乏性貧血の方に多く見られる症状のようで、この場合は鉄剤の投与で改善します。貧血になると必ず氷が食べたくなる、というものではありませんが、氷をいつもよりも多く食べ続けている、という場合には貧血の可能性があるかもしれません。
赤ちゃんも貧血状態を経験するってホント?
- 出産後も貧血になりやすい状態は続きますか?
- 出産時には出血がありますが、妊娠中に血液量が増えていますので通常は出産による貧血は起こりません。ただし、出産時に出血が多い場合には貧血になることもあります。出産後の検査でわかりますので、医師の指示に従ってくださいね。一方、母乳育児を行っているおかあさんは、妊娠していない女性や母乳育児を行っていないおかあさんに比べると貧血になる割合が低いという研究結果があります。でも、おかあさんの鉄は母乳に優先して使われるので、おかあさんが鉄不足にならないよう積極的に鉄を摂取してくださいね。
- 母乳だけでは赤ちゃんが貧血になりやすいと聞いたことがありますが、本当ですか?
- 赤ちゃんの貧血の原因はほとんどが鉄不足にあります。でも、母乳中の鉄は吸収が良いので通常は母乳だけでも鉄不足になることはありませんよ(「vol.7 今日からできる!妊娠~授乳期の貧血を防ぐ、鉄摂取のコツ」を参照)。それとは別に、赤ちゃんは生理的貧血といって、出生後一時的に貧血状態になる時期があることがわかっています。これは自然な現象なので病気ではありませんよ。
- 赤ちゃんにも生理的貧血があるんですね!どうして貧血になってしまうんですか?
- 赤ちゃんはおなかの中にいるときには胎盤を経由してお母さんから酸素を受け取っています。これはとても酸素の薄い環境なので、赤ちゃんのからだの中では赤血球をたくさん作ったりして対応しています。ところが、出生後は自分の肺で呼吸して酸素を受け取ることができます。そして、酸素の薄い環境から濃い環境へと急激な変化が起こります。この変化に対応するため、一時的に赤血球をつくるのを抑えているのです。生後2~3か月すると赤血球が作られるようになり、貧血が解消されます。そして、このころから鉄がたくさん必要になってきます。
- 「生理的貧血」の時期のあとが、大事なんですね。
- そうなんです。赤ちゃんはおなかの中にいる間に、おかあさんから鉄をもらって肝臓などの臓器に「貯蔵鉄」を蓄えています。赤ちゃんはこの貯蔵鉄や母乳からの鉄を使ってどんどん成長しますが、生後4~6か月ころから鉄がすこしずつ不足してきます。そこで、離乳食から鉄の補給が必要になるのです。
- なるほど。妊娠中からしっかり鉄を摂って、自分自身の貧血予防もしながら、赤ちゃんの貯蔵鉄を蓄えてあげないといけませんね。
- その通りです。でも鉄だけ摂っていれば大丈夫というわけではありませんよ。鉄を中心に葉酸、ビタミンB12などの栄養素をバランスよく摂って母子の貧血予防に役立てましょう。
貧血予防の心強い味方!鉄の鍋やフライパンを使いこなそう。
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- 貧血を予防するための食事のコツを教えてください。
- まずは鉄を中心に考えるといいと思います。鉄を多く含む食品は「かつお・牛赤身肉・ほうれん草・大豆製品・ひじきなど」などがあります。これに葉酸を多く含む食品「ほうれん草・ブロッコリー・アスパラガス・いちご・アボカドなど」、ビタミンB12を多く含む食品「あさり、さんま、煮干しなど」を組み合わせてみてください。そして、鉄の摂り方のコツを思い出してください。ビタミンCや肉魚類のタンパク質と一緒に摂ると非ヘム鉄の吸収も高くなるのでしたね(vol. 7 今日からできる!妊娠~授乳期の貧血を防ぐ、鉄摂取のコツ)。ここまで考えてメニューを作ると、ビタミンB6や銅、亜鉛もきちんと含まれた食事になりますよ。「月とみのり」では貧血予防に役立つレシピをたくさん提案していますので、参考にしてくださいね。
- ところで、鉄鍋を使うと鉄をたくさん摂ることができるというのは本当ですか?
- はい、本当です。鉄鍋でお湯を沸かすだけでも水の中に鉄が増えることがわかっています。鉄鍋から出た鉄はからだに吸収されやすい鉄なんですよ。また、塩味や酸味をつけた煮汁にはよりたくさんの鉄が含まれることがわかっています。鉄鍋を使った鍋料理や煮込み料理などは鉄が多くなっておすすめですよ。
- 鉄鍋のさび(錆)は食べてしまっても大丈夫なんですか?
- さびは鉄が酸化したものです。医薬品や食品の添加物としても使用されているものなので微量であれば大丈夫ですよ。鉄鍋をさびさせないためには、濡れたままで放置しないなど、お手入れにちょっとしたコツがありますが、正しく使えば長く愛用できて体にもいいのでおすすめです。
- 他に気を付けることはありますか?
- 鉄などのミネラル類は一度に少量ずつしか吸収されません。摂りだめをするのではなく、日々少しずつでも摂るようにしましょう。葉酸、ビタミンB12、B6などの水溶性ビタミンは水に溶けやすいので煮汁も合わせて摂るようにしましょう。ビタミン類は加熱に弱いので調理時間を短くするよう工夫してみてくださいね。過去記事にある「Vol.1 葉酸のなぜ?どう摂ればいい?」や「Vol. 8 妊娠・授乳中に不足しがちなビタミン、あなたは大丈夫?」なども参考にして、上手に貧血予防してください。