産育食を知る

サイエンスアドバイザーの研究室から

産育食ラボ

妊娠~授乳期の食にまつわる「なぜ?」。
最新の医学的知見をふまえて、女性サイエンスアドバイザーがやさしくお答えします。

Vol.14 妊産婦のストレスが赤ちゃんの健康に影響する?〈後篇〉

妊娠中や産後は、体調や環境の変化で不安になったり落ち込んだりするもの。でも度を過ぎたストレスは、赤ちゃんの健康に望ましくない影響を及ぼしてしまうかも…。前篇に続き、後篇では具体的に抗ストレスに役立つ栄養素や睡眠のコツをご紹介。

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答える人
「月とみのり」専属サイエンスアドバイザー
工樂真澄博士(理学)
工樂真澄博士(理学)
神戸大学理学部卒。神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了。分子進化を主なテーマとして パリ11大学、国立遺伝学研究所、理化学研究所で研究を行う。ドイツでの子育て経験もあり。野球少年の一男の母。

赤ちゃんのためになる栄養は、おかあさんの気分を安定させる役割も!

前篇は、妊娠期から授乳期のおかあさんの精神状態が赤ちゃんにも影響する、というお話でした。

はい。お母さんがストレスを抱えて落ち込んだままでは、お腹の赤ちゃんにもよくありません。

そのためには食事と睡眠が大切なんですよね。まずはどんなものを食べればいいのでしょう?

それほどむずかしく考えることはないんですよ。妊娠中はお腹の赤ちゃんのことばかり考えてしまいがちですよね。でもお腹の赤ちゃんに必要な栄養素は、実はお母さんの健康維持にも大切なものばかりなのです。愛媛大学大学院医学系研究科の三宅吉博教授らのグループでは、妊婦さんの栄養と「うつ症状」との関連についての疫学的調査を行いました。1745人の日本人の妊婦さんについて調査を行ったところ、妊娠中にうつ症状を患った方は19.3%でした。

妊婦さんの5人に一人ですね。

決して少ないとはいえない数字ですよね。さらに研究グループはどんな栄養素が気分の回復に効果的かを調べました。すると次の栄養素を積極的に摂取していた妊婦さんは、うつ症状の割合が有意に低いことがわかりました。
・カルシウム
・ビタミンD
・DHA(ドコサヘキサエン酸)およびEPA(エイコサペンタエン酸)などのオメガ3脂肪酸
さらに海外の研究から、「鉄分」の摂取によって産後うつの症状が軽減することがわかっています。

具体的ですね。でもこれってどこかで聞いたようなものばかり…。

そうです。これらの栄養素って、よく「お腹の赤ちゃんの発育に欠かせない」と言われるものばかりですよね。例えばカルシウムなら骨を作るとか、鉄なら血液を作る、とか。「赤ちゃんのために…。」と思って摂る栄養素は、実はおかあさんの気分を安定させることにも役立っているのです。

ポイントは、脳内物質「セロトニン」の働きを促すこと。

なんだか赤ちゃんとおかあさんはつながってるんだなあ、って感じます。でも栄養素ってどうやって「気分」とつながっているのですか?

例えばDHAやEPAなどの「オメガ3脂肪酸」やビタミンDは、妊娠とは関係なく、一般的にうつ症状を軽減することがわかっています。その理由として、これらの栄養素が「セロトニン」の合成と働きを促すためだと考えられています。

「セロトニン」って最近よく耳にしますけど、何ですか?

セロトニンは脳で情報を伝えている「神経伝達物質」の一つです。神経伝達物質の種類によって伝える情報や場所は異なるのですが、セロトニンは「気分」に関係しています。ほら、お風呂にゆっくり浸かっていたり、家でゆっくりくつろいでいたりするときって、なんだか安らいで幸せな気分になりますよね。そんなときはセロトニンの合成や分泌のバランスが良い状態です。反対にセロトニンの分泌や合成がうまくいかないと、イライラしたり不安になったりして、ひどい場合にはうつ病の原因になるとされています。

セロトニンって大事なんですね。じゃあ、セロトニンの入っているものを食べればいいのでしょうか。

セロトニンを食品から摂ったとしても、体の中で分解されてしまいます。セロトニンの合成を促すには、セロトニンの材料となる栄養素を食べるのが効果的です。セロトニンの素になるのは「トリプトファン」というアミン酸です。トリプトファンは「必須アミノ酸」と呼ばれるアミノ酸の一つで、人の体の中では合成することができませんから、毎日規則的に食事から摂取する必要があります。トリプトファンを多く含むのはタンパク質です。特に大豆製品、乳製品、ナッツ類、かつお節に多く含まれますから、上記に挙げた栄養素と共に、これらの食品を毎日上手に食事に取り入れましょう。
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朝夕のちょっとした心がけで生体リズムを整えて、良質な睡眠を。

食べ物だけじゃなく、寝ることも大切なんですよね。妊娠中はよく眠れない、って聞くんですけど…。

妊娠期や出産後に不眠を訴える方は少なくありません。ノルウェーで行われた調査では、妊娠32週目の妊婦さん達、そして出産後8週間のおかあさん達のどちらでも、約60%の方が不眠を訴えました。

妊産婦の不眠は世界共通ですね。

不眠はホルモンバランスの変化などが原因だと考えられますが、妊娠中に不眠の症状があると、出産後2年たっても不眠の症状が出やすいとのことです。しかし慢性的な不眠はうつを招きやすいですから、できるだけ早いうちに治しましょう。

眠れないとそれだけでイライラして、周りに当たり散らしたくなりますものね。胎教にもよくないはずです…。

先ほどの「セロトニン」なんですが、セロトニンは睡眠とも深く関係しています。セロトニンから合成される「メラトニン」というホルモンは、「眠気」を促す作用があるのです。セロトニンは朝、太陽の光を浴びることで体内で合成されます。反対にメラトニンは夜暗くなってから合成されます。夜になると自然に眠くなるのはそのためなんですね。

そうなんですか!セロトニンってホントに重要なんですね!

セロトニンとメラトニンが、約24時間周期で規則正しく合成分泌されるのが理想です。でも遅くまでテレビやパソコンを見ていると、その明りのせいでメラトニンの合成が妨げられてしまい、生体リズムが狂ってしまうんです。

生体リズムが狂うと、朝起きられなくてセロトニンも作られないから、さらに調子も狂うわけですね。

その通りです。正しい食習慣と規則正しい生活が何よりも大切な理由がお分かりになったと思います。

おかあさんが元気じゃなきゃ、子どもだって困りますものね!

お子さんがすくすく伸び伸びと育つ秘訣は、妊娠期も含めて、何といってもお母さんの気持ちが安定していることでしょう。お母さんがいつもイライラしていれば、子どもはたとえまだ小さくても気配を察して萎縮してしまいます。お腹の赤ちゃんだって同じです。悩み事があるときは自分一人で背負いこまず、周りの助けも借りて上手に息抜きしながら、妊娠期そして子育てライフを楽しんでくださいね。

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