最新医学と連携!産育食ラボVol.2「つわりのなぜ?どうすればいい?」
最新医学と連携!産育食ラボ
食欲がなく、胃がむかむかする。吐いてばかりで食べられない。中には食べ物の嗜好が急に変わって戸惑う人も。心身ともにつらい「つわり」を乗り切るために知っておきたいこととは?
「月とみのり」専属サイエンスアドバイザー
山下敦子博士(医学)
遺伝子工学などバイオテクノロジーの知見を背景に、医薬研究の道へ。
製薬会社研究員を経て大阪大学医学部研究員。現在は一女の母。はじめての子育てに奮闘中。
まだ完全に解明されていない「つわり」の原因。気持ちをラクに構えて。
- そもそもつわりはなぜ起きるのですか?
- 最初からむずかしい質問ですね。実は、つわりの原因については完全には分かってはいないんですよ。
- え!そうなんですか。
- つわりの症状や期間などはあまりにも人それぞれなので、一つのメカニズムで説明ができないのかもしれませんね。仮説としては、まず、妊娠にともなうホルモンバランスの変化が原因ではないかと指摘されています。
- やっぱり女性の体とホルモンはつながりが深いんですね~。
- 他には、ビタミンB6や葉酸の不足です。これらの栄養素は、タンパク質の代謝や細胞分裂に関わり、どちらも妊娠中により多く必要とされます。不足すると、むかつき、吐き気、嘔吐などの症状にいたる可能性が示されています。
- 栄養素もつわりに関係しているかもしれないんですね
- あとは、精神的な要因も大きいとされています。生活にトラブルを抱えていたりすると、重症化する傾向にあるようです。食べられなくて「お腹の赤ちゃんは大丈夫かな」と強く不安に思うこともつわりに影響するようです。
- やはりこの時期は、少し無理してでも食べておかないとダメなんでしょうか?
- 無理に食べて嘔吐すると体力が失われ、水分や電解質が不足することもあります。嘔吐してしまうことで不安感が増す方も多いと思いますから、無理に食べることはおすすめしません。
- 食べなくてもお腹の赤ちゃんは大丈夫なんでしょうか?
- 大丈夫です。つわりが重くても元気な赤ちゃんは生まれます。実は、食べ物を消化・吸収することは思っている以上にエネルギーを使います。つわりで食欲がなくなるのは、お母さんのエネルギー消費を抑えて、赤ちゃんの発育を優先させるているのかもしれない、という説もあるくらいです。
- そうなんですね。安心しました。
- 基本的にこの時期は、食べられるものを、無理せず食べられるだけ食べるぐらいの楽な気持ちでいいと思います。ただし、水分だけはこまめに摂ってくださいね。
つわり期におすすめな意外な食材とは?胃の負担を減らす工夫もいろいろ。
- つわりの時期の食べ方について何か工夫はありますか?
- 1回に食べる量を減らし、その分回数を増やすといいでしょう。この時期はホルモンの影響で胃の運動が抑えられているので、少しずつ食べて胃を広げ過ぎない方が症状が軽くなるようです。
- 1度に食べようと思わなくてもいいんですね。
- そして、空腹を避けることです。なにか手軽につまめるものを準備しておくのもいいですね。
- つわりの時におすすめの食べ物はありますか?
- 日本でおなじみの生姜は、つわりの症状を軽くすることが知られています。最近では、欧米でつわりに積極的に生姜をすすめるケースもあるようです。
- つわりに生姜とは、意外な組み合わせですね。何か特別な食べ方があるんですか?
- どんな食べ方でもいいんですよ。食欲がない時ならば、おろした生姜を飲み物に加えてもいいですね。
- 他にはどんな食べ物がありますか。
- ビタミンB6や葉酸を多く含む食品がおすすめです。ビタミンB6はまぐろ・かつお・さけ・さば・鶏ささみ・鶏むね肉・牛赤身肉・バナナなどに多く含まれています。葉酸は野菜や果物に多く含まれています。できれば、つわりになる前から積極的に摂っておきたい栄養素ですが、つわり中でも食べられそうなものから少しずつ試してみてください。
- サプリメントで代用しても大丈夫ですか。
- 食欲のない時にはサプリメントは便利ですよね。でも、妊娠中はビタミンAなど過剰摂取に注意が必要な栄養素もありますから、サプリメント使用にはいつもより慎重になってください。事前に必ず主治医の先生に相談してくださいね。
妊娠するとフライドポテトが食べたくなる?急な嗜好の変化はなぜ起きるの。
- ところで、つわりの時期でもフライドポテトが食べたくなると聞くことも多いのですが、何か関係があるのですか?
- 妊娠中に食べ物の好みが変わったり、偏ったりすることはよくあるようですね。フライドポテトもその一例です。おそらくはホルモンの変化が原因と考えられています。
- 本当に関係があるんですね。
- フライドポテトとつわりの関係についてはまだ科学的には明らかになっていませんよ。でも、女性は月経周期に応じて脂質の摂取量が変わることがわかっています。ですから、妊娠中にホルモンの影響で油っこいものが食べたくなるという可能性はあります。
- つわりの時期にすっぱいものが食べたくなるという話も聞きますが。
- 妊娠前の好みというのも人それぞれですが、妊娠中の好みの変化も人それぞれになるようです。もともと食べ物の好みというのは、味覚や嗅覚などの五感だけでなく、体調、経験、情報などを含めて脳で複雑に判断されています。妊娠すると、ホルモンの影響で味覚や嗅覚が変化し、今までの好みとは違う判断をされるのではないかと考えられています。
- 匂いに敏感になる人も多いようですね。
- そうですね。妊娠すると嗅覚は敏感になります。これは、食べ物の安全性を確認したり、有害な物質に近寄らないためではないかと考えられています。どちらも、お腹の赤ちゃんを守るために大事なことです。
- ごはんの匂いが苦手になることもあるとか。
- 実は、ごはんの匂いの中には硫黄の成分が含まれています。妊娠するとその匂いに反応して、危険なものと感じてしまうのかもしれません。
つわりの中で意外な自分を発見?ストレスも発想転換して乗り切りましょう。
- こうした食べ物や匂いに対する変化はずっと続くのですか。
- いいえ、妊娠中の食べ物や匂いに対する変化というのは、一時的なものです。いつもと違う感覚に戸惑うかもしれませんが、病気ではありませんので心配いりませんよ。
- 確かにいつもと違う感覚というのは、不便なことが多そうです。
- そうですね。今まで好きだった食べ物が食べられない、というのはストレスになるかもしれません。でも、逆にいつもと違う変化を楽しむくらいの気持ちで、何か好きになれる食べ物を探してみてほしいと思います
- 意外な発見があるかもしれませんね。
- でも、気に入ったからといって、食べ過ぎないようにしてくださいね。とくにフライドポテトなどは塩分や脂肪分が多いですから、食べる頻度や量に気をつけてください。
- 栄養バランスを考えて・・・ですね。
- その通りです。バランスの良い食事が基本です。でも、つわり中はある程度割り切って食べられるものを少しずつ食べるようにしましょう。食べたくなければ、無理に食べる必要はありませんよ。そして、つわりが軽くなってきたらいろいろなものを楽しみながら食べるようにしましょう。