産育食を知る

サイエンスアドバイザーの研究室から

産育食ラボ

妊娠~授乳期の食にまつわる「なぜ?」。
最新の医学的知見をふまえて、女性サイエンスアドバイザーがやさしくお答えします。

Vol.21 知りたい!食欲と体重をうまくコントロールするコツ

食欲が増して体重増加が止まらない…、つわりで体重が増えない…、など、妊娠・授乳期に悩みが尽きないのが体重のこと。どれくらい増えたらいいの?何をどう食べたらいいの?いろいろな疑問にお答えします。

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答える人
「月とみのり」専属サイエンスアドバイザー
山下敦子博士(医学)
山下敦子博士(医学)
遺伝子工学などバイオテクノロジーの知見を背景に、医薬研究の道へ。
製薬会社研究員を経て大阪大学医学部研究員。現在は一女の母。はじめての子育てに奮闘中。

適正な体重増加量には個人差あり!体重計の数字だけにとらわれないで。

そもそも妊娠中に体重が増え過ぎるとどうしていけないんですか?

妊娠中にはさまざまなトラブルがありますが、体重が増え過ぎることでいくつかのトラブルが起こりやすくなることがわかっています。たとえば、おかあさんについては妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などになりやすいとか、赤ちゃんについては巨大児、帝王切開、難産、死産のリスクが高くなることがわかっています。

でもダイエットはダメなんですね。

そうですね。妊娠中のダイエットはお腹の赤ちゃんにとって良くない影響があります。妊娠期をやせすぎのまま過ごした女性は、切迫早産や低出生体重児のリスクが高くなることがわかっているんですよ。最近の研究では、妊娠中の低栄養状態が胎内での発育だけでなく、赤ちゃんの成人後の健康状態にまで影響することがわかってきており、これはDOHaD説と呼ばれています(参照:DOHad説って何?前篇後篇))。赤ちゃんに必要な栄養素が不足してしまうような無理なダイエットはやめてくださいね。

具体的には妊娠中にはどれくらいの体重増加がいいんですか?

妊娠中の体重増加には個人差があるので、あまり数字にこだわることはありませんよ。妊娠前の体型や妊娠中の栄養状態によっても変わりますし、赤ちゃんの成長のスピードにも個人差があります。理論上は赤ちゃんの出生体重が3㎏、胎盤などが1.5㎏、おかあさんのからだの変化による増加分が6㎏程度なので、妊娠期間を通じて約11㎏ぐらいの増加が見込まれます。妊娠中期から目立った増加がはじまるとすると週に0.3-0.5kgくらいのペースで体重が増加すると計算できます。ただし、これらの数字はあくまで目安として考えてください。

つわりで体重が増えないというのも気になります。赤ちゃんは大丈夫でしょうか?

大丈夫ですよ。無理に食べるとかえって嘔吐したりするので、まずはゆっくり休んでください。食べられそうな時には少しずつ食べるようにしてみてください。つわりは必ず軽くなりますので、その時にはしっかりと栄養を摂ってくださいね(参照:Vol.2「つわりのなぜ?どうすればいい?」)。

妊娠初期から体重が増えるのは増え過ぎですか?

妊娠すると、おかあさんのからだは脂肪を溜めるように働きます。これは、妊娠後期の赤ちゃんの急速な成長や出産への準備といえます。特に妊娠前にやせすぎていた女性では他の女性よりも脂肪増加が多いことがわかっています。でも妊娠が原因でついた脂肪は出産後に減らすことができますので安心してください。

妊娠中はとにかく体重管理がプレッシャーになりがちですが、数字だけでは判断できないんですね。

確かに妊娠中の体重コントロールは大切なのですが、最近の研究からはあまり厳しく体重を管理する必要性は低いと考えられていますよ。妊娠による体重変化の目安や、妊娠前の体型を参考にして無理のないコントロールをしてください。大切なのは、しっかりと栄養を摂って、赤ちゃんの成長を助けてあげることですよ。

産後も焦りは禁物! 5~6か月ぐらいかけて、ゆるやかに元の体重に戻して。

女性タレントなどは、産後すぐにスリムな体型に戻っていますが、ああいうのを見ると焦っちゃうんですよね。

産後の食生活によって変わりますが、基本的には体重は自然に元に戻りますから焦る必要はありません。特に母乳育児をしていると体重が戻りやすいことがわかっています。逆に妊娠中に体重が増え過ぎた場合には戻りにくくなります。一般的には排卵の始まる産後5~6か月を目安に元の体重に戻るよう、コントロールするのがよいとされています。

産後はダイエットをしてもいいのですか?

極端なダイエットは母乳の分泌を悪くして、赤ちゃんの栄養状態にも影響しますのでやめましょう。また、ダイエットのつもりはなくても、授乳期は育児が忙しく食事がおろそかになりがちです。食事を抜いてしまったり、菓子類で代用したりすると赤ちゃんに必要な栄養素が不足してしまいます。食事作りについては、パートナーに協力してもらったり、保存を工夫するなどして産後もきちんと栄養を摂れるようにしてください。


母乳育児をしていてもなかなか体重が戻らないときはどうしたらいいですか?

おかあさんの体型や母乳の分泌量によって体重の戻り方は変わります。母乳の出具合、体重の戻り具合などをチェックしながら食事量を調節してみましょう。なお、卒乳やミルクによって母乳育児を終えた後は、同じ食事を続けていると体重が増加します。妊娠前の食事量を参考に、食生活を見直してくださいね。

食欲が止まらない!そんな時は食事の「時間」「速度」を意識して。

妊娠、授乳期には食欲が止まらないことがありますが、どうしたらいいですか?

妊娠、授乳期には普段に比べると必要になるエネルギーも増えるので食欲も増えます。しかし、食欲と空腹とはいつも同じとは限りません。ヒトは空腹、満腹に関わらず外部からの刺激で食欲がコントロールされます。食欲が止まらない時にはこの外部からの刺激が影響しているのかもしれません。

それはどんな刺激なんですか?

例えば、情報です。時間が来たから食べる、お得だから食べる、健康にいいから食べるなどというのは情報による食欲の刺激になります。おいしいからもっと食べたい、もっとおいしいものが食べたいという快楽を求める気持ちも同様ですね。また、ストレスも満腹ホルモンや空腹ホルモンを攪乱して食欲を刺激します。本来ならば、食欲は必要なエネルギーを補充して体重を一定に保つためにきちんとコントロールされています。妊娠中でも必要なエネルギーが補充されると満腹になり、食欲はおさまるはずです。体重が増え過ぎているときは、空腹だから食べたいのか、空腹ではないけれど外部からの刺激で食べたいと感じているのか、ということを考えてみてください。

なるほど。「外部からの刺激」を自覚しつつ、体重や食欲をうまくコントロールするコツはありますか?

体重や食欲のコントロールと聞くと、「何を食べるか」ということが一番に気になると思います。ですが、最近の研究からは「食べ方」を見直すことが重要であることがわかってきています。 まず見直したいのは食べる時間についてです。同じカロリーの食事を摂っても、食べる時間によってエネルギーへと消費される量が違います。エネルギーへの消費量は、朝食が一番高く時間ごとに減って夜食では一番低く、その差は4倍にもなります。zu1

そんなに違うんですか!

そうなんです。エネルギーにならなかった分は脂肪として蓄えられますから、夜食は朝食に比べると脂肪が増えやすくなるのです。つまり、朝食や昼食の食べる量を減らしても遅い時間の食事があると体重は増えやすくなってしまいます。体重をコントロールするためには、朝食や昼食をしっかりと食べ、夜食を控えるようにするのがおすすめです。

朝は食欲がないということもあるのですが…。

朝食を抜くことはいろいろな点で肥満の原因になることがわかっています。朝食分だけでもカロリーを減らした方が太りにくいと思われるかもしれませんが、実際には朝食を食べる人の方が肥満は少ないのです。これは概日リズムや血糖値のリズムの影響と考えられています。少しずつでも朝食べる習慣を付けておくといいですよ。

他にも食べ方の工夫はありますか?

はい、ありますよ。それは、食べる速さについてです。多くの研究から、食べる速さとBMIには関係があることがわかっています。食べるのが早い人ほどBMIが高い傾向があるというのです。特に早食いでお腹がいっぱいになるまで食べるという人はBMIがより高い傾向になります。これは満腹感による食欲の抑制に少し時間がかかるため、と考えられています。できるだけゆっくりと食事をし、お腹いっぱいまで食べ過ぎないようにすることが大事です。そのためには、噛む回数を増やしたり、一口の量を減らすなどして、時間をかけて食事をするといいでしょう。

安易な糖質制限は×!タンパク質を意識してバランスよく体重コントロール。

食べ物の種類についてはどうでしょうか?

エネルギーの元となる糖質、タンパク質、脂質のなかではタンパク質が腹持ちがよくて、消費エネルギーが高くなります。同じカロリーの食事ならタンパク質を多く含むものがおすすめです。

糖質や脂質は減らした方がいいのですか?

糖質といえば穀物・砂糖・芋類などに含まれる炭水化物ですが、これは赤ちゃんに優先的に送られるエネルギー源です。糖質だけを減らすのは赤ちゃんの成長に影響するので止めましょう。ただ、糖質だけの食事は消化が早く空腹を感じやすいので、タンパク質を加え、その分糖質を控えるような食事が望ましいと思います。脂質も赤ちゃんの神経発達に必須の栄養素なので極端に減らすこと止めましょう。脂質は胃の運動を抑えて腹持ちが良くなるので、少しずつ摂ると食べ過ぎが抑えられます。できれば肉類よりも魚類の脂質を摂ることがおすすめです。

糖質や脂質を少し減らして、タンパク質を足すという感じですか?

そのとおりです。作る時間や食べる時間がないときは、おにぎりやパンだけになったり、体重が気になって野菜サラダだけになったりすることがあると思います。しかし、食物繊維や糖質は胃の中に留まる時間が短く、空腹になりやすいのです。空腹感を我慢して食事量を減らすことはストレスにもなります。おにぎりに具を加えたり、サンドイッチにしたり、野菜サラダにもツナを加えるなどの工夫をするといいですよ。

食材で何かおすすめのものはありますか?

野菜は胃の中に留まる時間が短いのですが、噛みごたえがあり時間をかけて食べる必要があるので、早食いによる食べ過ぎ防止のためにおすすめできます。レタスよりはキャベツ、じゃがいもよりはレンコンといったように噛みごたえのある食材がいいでしょう。レタスやじゃがいもがいけないわけではありませんが、柔らかいものばかりにならないよう組み合わせてみてください。zu2

調理方法などのコツはありますか?

揚げ物より煮物や和え物にする、食材を大きめに切ってしっかり噛めるようにするなどの工夫がおすすめです。野菜については加熱するよりも生の方が噛みごたえがあるので食材に応じて工夫してみてください。

他に気を付けることはありますか?

体重が増えすぎているときには、基本的に間食は控えた方がよいのですが、あまり空腹時間が長くなる場合には少量のおやつを摂りましょう。果物は胃の中に留まる時間が短く、夕食に影響しにくいのでおすすめです。また、夕食までかなりの時間がある時には大豆などのタンパク質を含むおやつが腹持ちがいいですよ。

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