【産育食ラボ速報】産後うつと「ボンディング(対児愛着)」との関係を示した研究~エコチル調査から

月とみのりアンテナ

産育食ラボからレポートです。
待ち望んだ赤ちゃんを腕に抱いた喜びもつかの間、子育てに悩むお母さんは少なくありません。今回は最新の産後うつとボンディングとの関係を調べた研究についてレポートします。


長い妊娠期間、日に日に大きくなるお腹をさすりながら、お母さんたちは赤ちゃんと会える日を心待ちにしておられることでしょう。でも、待ち望んだ赤ちゃんを腕に抱いた喜びもつかの間、子育てに悩むお母さんは少なくありません。

お母さんが子どもを愛し、お世話をしたい、守りたいという情緒的な絆のことを「ボンディング」といいます。

この度、富山大学の𡈽田暁子博士らのグループは、お母さんの産後うつとボンディングとの関係を調べた論文を発表しました。今回は、この研究についてご紹介します。

 

【赤ちゃんを大切に思う気持ち:ボンディング】

お母さんが子どもを愛し、お世話をしたい、守りたいという「ボンディング」の感情は、出産後、自然に表れることがふつうです。しかし、「赤ちゃんをかわいく思えない」「世話をしたいと思えない」という「ボンディング障害」で苦しくむお母さんは、決して少なくありません。

富山大学の研究グループは、エコチル調査(注)に参加したお母さん76363人の回答を詳しく解析し、ボンディングと産後うつとの関係を調べる研究を行いました。

ボンディングは、イギリスで開発された「Mother-Infant Bonding Scale(母と子のボンディング指標)」の中から、以下の5項目によって評価しました。

(1)赤ちゃんをいとおしいと感じる
(2)赤ちゃんのためにしないといけない事があるのに、おろおろしてどうしていいかわからないときがある
(3)赤ちゃんに対して何も特別な気持ちがわかない
(4)赤ちゃんの世話を楽しみながらしている
(5)この子がいなかったらなあと思う

(※その他、詳しい質問項目は公益財団法人 母子健康協会のサイトで紹介されています。)

質問には、「まったくそう思う」から「まったくそう思わない」まで、5段階の基準によって回答してもらいました。

また、産後うつの評価には、「エジンバラ産後うつ指標」が用いられました。

これら2つの評価の関係を詳しく解析したところ、産後うつの傾向が強いほど、「育児不安」や「母親としての感情の欠如」が強いことが明らかになりました。

 

【1人目の出産が一番不安】

次に研究グループは、2人目を出産したお母さん3753人について、1人目の出産のときと回答がどのように変化しているかを解析しました。その結果、1人目のときよりも、2人目のときのほうが産後うつを示す傾向が減り、育児不安が和らぎ、母親としての感情が改善していることがわかりました。

以上の結果から、産後うつとボンディング障害には関係があり、またその傾向は初産のほうが強く表れることがわかりました。

 

【産後うつのサインを見逃さないで】

今回ご紹介した研究から、産後うつが強いほど、赤ちゃんに対する愛着がわきにくくなる「ボンディング障害」が表れやすくなることが示されました。産後うつは、出産によって誰でもなる可能性があります。しかし、その症状が長引くと、本当のうつに移行したり、愛情不足によってお子さんの発達にも影響がおよぶ恐れがあります。

出産や育児には完ぺきなマニュアルはなく、ひとりひとり異なるものです。だからこそ、どうしていいかわからないこともたくさんあります。そんなとき誰にも頼ることができず、「あんなに楽しみにしていた赤ちゃんなのに、かわいく思えない…」と、苦しんでおられませんか? 育児中はどうしても赤ちゃんのお世話が最優先になりがちですが、お母さんが元気でいることが赤ちゃんにとっても一番大切です。「おかしい…」と感じたら、どうぞひとりで悩まずに、まずはお住いの地域の保健所に早めに相談してみてください。

 

ご紹介した論文
Changes in the association between postpartum depression and mother-infant bonding by parity: Longitudinal results from the Japan Environment and Children’s Study.
Tsuchida A, et al. Journal of Psychiatric Research. 2019;110:110-6.
富山大学プレスリリース
https://www.u-toyama.ac.jp/outline/publicity/pdf/2018/20190108.pdf

注:「エコチル調査」とは
「子どもたちが安心して健やかに育つ環境をつくる」ことを目的に行われている大規模調査。妊娠期から出生後の子どもが13 歳になるまでの健康状態や生活習慣を2032年度まで追跡して調べている。
環境省「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」
http://www.env.go.jp/chemi/ceh/index.html

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