【産育食ラボ速報】妊婦さんの栄養不足が赤ちゃんに影響!最新研究より

月とみのりアンテナ

産育食ラボから速報です!
妊娠中のおかあさんの低栄養が赤ちゃんに与える影響について、最新の研究が発表されました。
その内容は…【妊婦さんが栄養不足だとお腹の赤ちゃんが脂肪肝に!?】

お腹の中で赤ちゃんをはぐぐむ妊婦さん。
その栄養状態が、赤ちゃんの将来にわたって影響を与える、ということが分かってきました。
今回最新の「おかあさんの栄養状態が赤ちゃんの肝臓に影響する」という研究について、サイエンスアドバイザーが分かりやすくレポートします。
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妊婦さんの栄養がお腹の赤ちゃんにどれだけ大切かということを、このサイトでは繰り返しお伝えしています。

浜松医科大学の伊東宏晃教授らのグループは、実際にはどのように妊婦さんの低栄養がお腹の赤ちゃんに影響しているのかを詳しく調べ、この度、国際誌「サイエンティフック・リポーツ」に発表しました。
今日はその論文のご紹介です。

 

【低体重児は糖尿病や高血圧になりやすい】

食べるものは周りにたくさんあるのに、なぜか日本では2500g以下の低体重で生まれる赤ちゃんが年々増加しています。
お母さんが妊娠中に栄養不足だったり、妊娠前に痩せすぎていたりすると低体重児が生まれやすくなることが知られています。
また低体重で生まれると大人になってから高血圧や糖尿病を発症するリスクが増えることが明らかになっていますが、そのメカニズムはまだ研究途上です。

伊東教授らの研究では妊娠マウスの栄養摂取を制限して低栄養にし、赤ちゃんマウスにどのような影響があるかを調べました。

 

【低栄養で育つと、高カロリー食に耐えられない!】

正常な母マウスと、低栄養の母マウスから生まれた子マウスは、普通の食事を与えていればそれほど違いがないように見えました。
しかし高カロリーの食事を与えると、違いが明らかになりました。

それぞれの子マウスの肝臓の大きさを比べると、低栄養の母マウスから生まれた子マウスの肝臓は肥大し、「脂肪肝」を起こしていることがわかったのです。

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【お腹の中と生まれてからの栄養ギャップ】

脂肪肝は肝臓に脂肪がたまる病気で、いわゆる内臓脂肪型の肥満に当たり、人では生活習慣病や動脈硬化を引き起こす可能性があります。
以前は欧米で多く見られた病気でしたが、現在では日本や中国、または新興国でも急激に増えています。
この理由として、お腹の中にいた環境と、育った環境のギャップが原因ではないかと言われています。

一昔前の日本や新興国はまだ国全体がそれほど裕福でもなく、食事も動物性脂肪分の少ない比較的低カロリーなものが主流でした。
しかし現在では経済が著しく発展したのに伴い、欧米型の高栄養の食生活へと大きく変化しています。
マウスの実験はまさにこの状況と似ています。
お腹にいたときに低栄養で育った世代は、高カロリーな食事をうまく代謝するための下地ができていないのです。
結果的にマウスで見られたように、脂肪肝や他の病気を引き起こしやすくなります。

 

【そのメカニズムは?「小胞体」が鍵に!】

さらに教授らは低栄養の母マウスから生まれた子では、「小胞体」と呼ばれる細胞の中の器官に異常が起こっていることを見つけました。
タンパク質はそれぞれが独自の「形」を持っており、その構造によって機能が変わります。
小胞体は細胞の中でタンパク質の形を作るという大切な役目を担っています。

小胞体に異常が生じた結果、低栄養の母マウスから生まれた子ではタンパク質がきちんと折り畳まれておらず、設計図通りの形になっていませんでした。
形が変わると、そのタンパク質は機能を果たすことが出来なくなります。
そのため体のあちこちで不都合が生じます。

低栄養の母マウスから生まれた子が高カロリーの食事に反応できないのも、この「小胞体」の変化が原因と考えられます。
この実験はマウスですが、同じ哺乳類であるヒトでも同様のことが起こっているのでしょう。

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【お腹の赤ちゃんの健康は、お母さんの食べるものから作られる】

お母さんが妊娠中にきちんと栄養を摂ることの重要性は、この論文からも明らかです。
でもつわりがひどいときには、なかなか思うようには食べられないものです。
「食べなければ」、と思うと余計にストレスになって、お腹の赤ちゃんにもよくありません。
そんなときは無理に食べようとせず、ゆったりとした気持ちで過ごしましょう。
そして食べられるようになったら、赤ちゃんのためにも栄養のバランスのとれた食事をするように心がけましょう。

 

ご紹介した論文

Undernourishment in utero Primes Hepatic Steatosis in Adult Mice Offspring on an Obesogenic Diet; Involvement of Endoplasmic Reticulum Stress.

Muramatsu-Kato K et al. Sci Rep. 2015 Nov 19;5:16867.

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